@phdthesis{oai:glim-re.repo.nii.ac.jp:00005401, author = {時田, 司 and Tokita, Tsukasa}, month = {2022-06-20, 2022-06-20, 2022-06-20}, note = {フェムト秒レーザーを光源に用いた高安定フーリエ変換限界ピコ秒時間分解ラマン分光計を製作した。本装置を用いて金属ナノ粒子(NP)がもたらす特異な光化学反応場の性質解明に取り組んだ。  金属NP近傍は、特異な光化学反応の場として機能している。特異な反応場の性質を解明するためには、反応中に過渡的に存在する分子の情報が必要不可欠である。反応過渡種を追跡する強力な手法のひとつとしてピコ秒時間分解ラマン分光法がある。しかし金属NP近傍にある分子のピコ秒時間分解ラマン分光測定を実施するためにはいくつかの問題点を克服しなければならなかった。本研究では、フェムト秒レーザーを光源に用いる新たな手法によって、高安定フーリエ変換限界ピコ秒時間分解ラマン分光計を製作した。本装置の完成によって、金属NP近傍の光反応過渡種の超高速測定が可能になり、特異な反応場の特性が一部明らかになった。  第一章では、第一節で化学反応の機構を理解するために分子構造情報に着目した理由とピコ秒時間分解ラマン分光法の原理および装置設計の指針を述べた。第二節では金属NPが示すプラズモン共鳴の性質について述べたのち、第三節で金属NPがもたらす特異な光化学反応の例をあげた。第四節にて、本研究は特異な光化学反応場の性質を過渡分子種の振動スペクトルに基づいて調査した数少ない例として位置づけられることを述べた。  第二章では、第一節で製作した高安定フーリエ変換限界ピコ秒時間分解ラマン分光計の設計思想と実験操作の詳細を記述した。装置の改良の余地についても述べ、改良によって期待される装置の性能予想を示した。第二節では、金属NPが光パルスの照射で失活してしまう問題を解決するために新たに確立した金属NPの調製手法について述べた。  第三章では、高安定フーリエ変換限界ピコ秒時間分解ラマン分光計の性能評価について述べた。光源にはフェムト秒Ti:sapphire再生増幅器(波長800 nm, 繰り返し周波数1 kHz, パルス幅 < 100 fs)を用いた。得られた出力を分割し、光反応開始のためのポンプ光およびラマン散乱過程を引き起こすプローブ光に用いた。ポンプ光には、再生増幅出力を光パラメトリック増幅器(OPA)に導入して得た紫外のフェムト秒光パルスを用いた。プローブ光の発生には、再生増幅出力をOPAで波長変換して得た可視のフェムト秒光パルスと体積グレーティングノッチフィルターを用いた。体積グレーティングノッチフィルターはガラス材料中に回折格子が形成されたフィルターであり、設計した波長を中心とした狭帯域の波長成分の光のみを反射することができる。出力は安定だが幅の広い波数成分を持つフェムト秒光パルスを、体積グレーティングノッチフィルターで反射することで、狭帯域な波数成分を持つ反射光が得られる。この時光パルスの時間幅はフーリエ変換の関係によって広がりピコ秒光パルスとなる。ポンプ光による光励起から任意の時間が経過した後に狭帯域ピコ秒光パルスを照射することで、ピコ秒時間分解ラマンスペクトルの測定を行った。本装置では-40 psから1200 psまでの遅延時間で測定することができる。本手法によって中心波長632 nmの光パルス(Δυ = 6.0 cm-1, Δt = 3.2 ps)と532 nmの光パルス(Δυ = 8.6 cm-1, Δt = 2.0 ps)を得ることに成功した。波数幅と時間幅の積はそれぞれ19.2 ps cm-1と17.2 ps cm-1であり、これはガウシ関数のフーリエ変換限界である14.7 ps cm-1の1.2-1.3倍という極限に近い性能であることがわかった。この光パルスの出力揺らぎを平均二乗平方根(RMS)で評価したところ0.8%であった。従来のピコ秒レーザーを光源に用いた分光計ではRMS値は10%程度の場合が多かったが、本手法では出力安定性がひと桁向上した。完成した装置の性能を評価するために、316 nmまたは266 nmで光励起して発生させた最低励起1重項(S1)状態のtrans-stilbeneの振動冷却ダイナミクスを観測した。  第四章では、金属NPとS1状態のターチオフェン(3T)の振動モード選択的な高速振動エネルギー移動について述べた。第一に基底(S0)状態での3Tの表面増強ラマンスペクトルの測定を行った。すると金のNP(AuNP)と銀のNP(AgNP)において、金属原子と3TのS原子の結合に由来する伸縮バンドがそれぞれ260 cm-1と230 cm-1に現れた。一方で、ピコ秒時間分解ラマン分光法で得られたS1 3Tのラマンスペクトルは金属NPの存在下と非存在下で良い一致を示した。S1 3Tの寿命も両者で良い一致を示したことから、金属表面から一定程度離れた位置に存在するS1 3Tが観測されたと結論づけた。金属表面から離れた位置に存在するにも関わらず、S1 3Tのラマンバンドの位置の時間変化は、金属NPの存在によって大きく変化した。S1 3Tの670 cm-1のラマンバンド(C-S伸縮振動)に注目して,このラマンバンドの位置の時間変化を調べた。最初にポンプ光に320 nmの光を用いて、S1 3Tに余剰エネルギーを与えた。余剰エネルギーはS1 3Tに熱エネルギーとして蓄えられる。このポンプ光の波長では、AuNPも光励起することができる。光励起された金属NPでは格子振動などが励起される。ここで観測されたラマンバンドの位置の時間変化は、S1 3Tの振動冷却過程に対応する。光励起されないAgNPが存在する場合は、振動冷却過程は装置の応答時間である3.2 ps以内に完了した。次にポンプ光に390 nmの光を用いて、余剰エネルギーが与えられていないS1 3Tと、光励起されたAuNPおよびAgNPが存在する条件で同様に測定した。すると金属NPが存在することで、670 cm-1のラマンバンドは光励起直後に熱エネルギーを獲得したことが示唆された。S1 3Tと金属NPの間に熱エネルギーの勾配が存在するとき、振動モード選択的に高速なエネルギー移動が進行することが判明した。この現象を説明するために、金属NPとS0 3TおよびS1 3Tの分子振動カップリングによるエネルギー伝達モデルを提案した。  第五章では、金属NP存在下での3Tラジカルカチオンの振動モード選択的な振動位相緩和の加速について述べた。ラマンプローブ光に532 nmの光パルスを用いることで、3Tラジカルカチオンの観測が可能にした。ラジカル種のラマンスペクトルもまた、S1 3Tと同様に金属NPの有無によって変化しなかった。一方で、金属NPが存在するときは光励起から3 ps, 5 ps後における680 cm-1のラマンバンド(C-S伸縮振動)の半値全幅が50 cm-1程度増大した。バンド幅の増大は振動位相緩和時間の加速を強く示唆する。金属NPの存在によって3TラジカルカチオンのC-S伸縮の振動位相緩和は0.2 psに加速したと見積もられた。振動位相緩和の加速が振動モード選択的に観測されたことから、3TラジカルカチオンにおいてC-S結合の近傍の原子核の振動で位相の乱れ生じたと考えられる。この現象の説明のために、3Tラジカルカチオンの高速構造緩和モデルおよび金属原子との高速結合形成反応モデルを提案した。  第六章では総括を述べた。高安定フーリエ変換限界ピコ秒時間分解ラマン分光計の製作によって、金属NP存在下における光反応過渡種の反応初期過程を観測することに成功した。金属NPの存在によって、S1 3Tは振動エネルギーの高速な移動経路を、3Tラジカルカチオンは高速な構造変化の反応経路を獲得したことが明らかになった。金属NPがもたらす反応場は光反応過渡種に対して、エネルギー移動および構造変化ダイナミクスのどちらにも新たな経路を与えることが明らかになった。, application/pdf}, school = {学習院大学, Gakushuin University}, title = {高安定フーリエ変換限界ピコ秒時間分解ラマン分光計の製作と金属ナノ粒子近傍の過渡分子種の時間分解分光研究}, year = {}, yomi = {トキタ, ツカサ} }