@phdthesis{oai:glim-re.repo.nii.ac.jp:00005400, author = {梶田, 瑞穂 and Kajita, Mizuho}, month = {2022-06-20, 2022-06-20, 2022-06-20}, note = {アセトニトリル溶液中のtrans-スチルベンとビフェニルの光イオン化で生成する電子とラジカルカチオンの生成速度とイオン化ポテンシャルをフェムト秒時間分解近赤外吸収分光法とピコ秒時間分解ラマン分光法で観測した.イオン化で生成する電子の運動量をフェムト秒時間分解近赤外吸収異方性測定から評価した.  光イオン化は分子に光を照射したとき,電子が放出されてラジカルカチオンが生じる化学反応である.溶液中の光イオン化は,電子,ラジカルカチオン,溶媒分子間の相互作用がある,複雑かつ興味深い現象である.本研究では,ラジカルカチオンの生成速度,ラジカルカチオンと電子間で分配されるエネルギー,電子の運動量に注目して,イオン化によって電子がどのように生成するか研究した.そのために,フェムト秒時間分解近赤外吸収分光計とピコ秒時間分解ラマン分光計で電子とラジカルカチオンを観測した.  第一章では,溶液中における光イオン化の特徴について説明している.液相中のイオン化ポテンシャル(IP)は,生成するカチオンと電子が溶媒分子によって安定化されるため,気相中のそれよりも低くなり,溶媒の種類によってもその値は変わる.放出された電子は親カチオンのクーロン場内を並進拡散運動して,ある確率で親カチオンとの再結合を逃れる.その確率は溶媒の誘電率によって特徴づけられており,Onsager理論に基づくと,極性溶媒中の方が無極性溶媒中より一桁も高い. 溶媒和電子の状態は,電子を放出するイオン化過程において重要な溶媒との相互作用を敏感に反映する.溶液中に放出された電子は周囲の溶媒の再配向によって安定化されて溶媒和電子となる.溶媒和電子の研究は様々な種類の溶媒中で行われており,電子が示す吸収帯やその挙動は溶媒との相互作用で解釈されている.溶媒和電子を観測することで溶液中のイオン化機構を調べることができる.  第二章では,実験方法について説明している.第一節では電子の観測に用いたフェムト秒時間分解近赤外吸収分光計,第二節ではフェムト秒パルスの群速度分散の補正方法,第三節ではラジカルカチオンの観測に用いたピコ秒時間分解ラマン分光計について述べている.  第三章では,フェムト秒時間分解近赤外吸収分光法による実験の結果をもとにtrans-スチルベンの二光子イオン化機構を議論している.二光子イオン化によってtrans-スチルベンのラジカルカチオン電子基底(D0)状態が生成する.もし光吸収によって生成した電子励起状態のtrans-スチルベンから,直接イオン化する場合,D0状態trans-スチルベンの信号は光照射直後に立ち上がると予想される.しかし,アセトニトリル溶液中でD0状態trans-スチルベンの信号はおよそ20 psの時定数で立ち上がると報告されている.D0状態trans-スチルベンが,光照射後どのくらいの時間で生成しているか調べるために,フェムト秒時間分解近赤外吸収分光法で電子を観測した.励起状態のtrans-スチルベンや電子の吸収帯が重なっている複雑な時間分解吸収スペクトルが得られた.多重指数関数を用いたグローバル解析によりスチルベンと電子の吸収を分離し,電子が光照射から0.28 ± 0.01 ps以内に生成していることを明らかにした.電子とラジカルカチオンは同時に生成するはずなので,ラジカルカチオンも0.28 ps以内に生成している.それにも関わらず,D0状態trans-スチルベンの信号増加はおよそ20 psかかる.電子とラジカルカチオンの生成速度を比較することで,電子放出とともに励起状態のラジカルカチオンが生成し,その後D0状態trans-スチルベンへ緩和するイオン化機構を提案した.  第四章では,フェムト秒時間分解近赤外吸収分光法によるビフェニルのイオン化しきい値の見積もりから,芳香族化合物の光イオン化機構を提案した.イオン化直後のラジカルカチオンはイオン化ポテンシャルと励起エネルギーの差に相当する余剰エネルギーの一部を受け取った状態になっていると考えられる.どのような励起状態ラジカルカチオンが生成しているか明らかにするため,余剰エネルギーに注目した.アセトニトリル溶液中のビフェニルを300 nmの紫外光で二光子イオン化させた.時間分解近赤外吸収分光法で観測した電子の信号増加は0.33 ± 0.04 psの時定数を示した.対して,時間分解ラマン分光法で観測したD0状態ビフェニルの信号増加は10 ± 3 psの時定数を示した.ラジカルカチオンは電子と同時に生成するはずであるが,その増加の時定数は電子よりも二桁も遅かった.アセトニトリル溶液中のD0状態ビフェニルでもtrans-スチルベンと同様に励起状態のラジカルカチオンが生成していることが強く示唆された. アセトニトリル溶液中のビフェニルのイオン化しきい値を見積もるために,励起エネルギーを変えながら電子の過渡吸収スペクトルを測定した.エネルギーの減少とともに電子の生成量が減少した.直線による近似から7.31 ± 0.06 eVで電子が生成しなくなったと推定した.7.31 eVをイオン化しきい値として,300 nmの二光子エネルギー8.27 eVとの差から余剰エネルギーがおよそ1.0 eVと見積もることができた.先行研究で行われた計算との比較から,イオン化直後に余剰エネルギー1.0 eVをすべて受け取っていれば,電子励起状態のラジカルカチオンが生成する可能性が示唆された.これらの結果から,新たな芳香族化合物の光イオン化機構「イオン化直後に生成した電子励起状態のラジカルカチオンがD0状態へ内部転換する.このときラジカルカチオンの周りの溶媒分子が熱励起されて,溶媒和構造が乱れる.溶媒和圏の分子から溶媒バルクへのエネルギー移動により溶媒和構造が安定化されるまでD0状態ラジカルカチオンは観測されない」を提案した。  第五章では,フェムト秒時間分解近赤外吸収分光計を用いて溶媒和過程における電子吸収の異方性を議論した.アセトニトリル溶液中でビフェニルから放出された電子の溶媒和と再結合過程における吸収異方性の時間変化をフェムト秒時間分解吸収分光法で調べた.光照射後約0.2 psで,電子の吸収異方性は0だった.これは約0.2 psで電子の遷移モーメントの向きが等方的になったことを示している.先行研究では,イオン化後1 ns時点で異方性が測定されており,その異方性は4 psで減少すると報告されている.これらの結果は電子解離から溶媒和までの過程において,1 ns時点にはない異方性の緩和過程が存在することを示している.溶媒中に放出された電子は溶媒分子と衝突してエネルギーを失った後に溶媒和される.これらの過程はアセトニトリル溶液中で1 ps以内に完了し,イオン化後1 nsでは存在しない.そこで,異方性緩和過程の候補として,熱平衡化と溶媒和過程を提案した.  溶液中の光イオン化は電子とカチオン,溶媒分子間で相互作用のある興味深い反応である.本研究は,芳香族化合物のイオン化によって電子がどのように生成するかフェムト秒時間分解近赤外吸収分光法で評価した.ラジカルカチオンの研究と比較することで,溶媒和電子とラジカルカチオンの生成速度および余剰エネルギーと運動量の分配の説明を含む極性溶媒中における芳香族化合物の光イオン化機構を提案した., application/pdf}, school = {学習院大学, Gakushuin University}, title = {フェムト秒時間分解近赤外吸収分光法で研究した溶液中における芳香族化合物の光イオン化機構}, year = {}, yomi = {カジタ, ミズホ} }