@phdthesis{oai:glim-re.repo.nii.ac.jp:00005328, author = {沖野, 隼之介 and Okino, Shunnosuke}, month = {2022-04-25, 2022-04-25}, note = {溶媒和電子の発生初期過程の過渡吸収スペクトルをマルチチャンネル測定するフェムト秒時間分解可視近赤外分光光度計を開発し、電子の水和初期過程において時間分解可視近赤外吸収スペクトルの測定を行った。 また、フェムト秒時間分解近赤外分光計を用いて、トルエン溶液に溶かした長さの異なる6種のオリゴチオフェンおよびポリチオフェンの第一励起状態(S1)に励起した分子の過渡吸収スペクトルを測定した。 電子が一般の分子軌道よりも非局在化し、緩やかに束縛されているような状態では近赤外領域に吸収帯を持つことがある。電子が一般の分子軌道よりも非局在化し、緩やかに束縛されているような状態では近赤外領域に吸収帯を持つことがある。このような非局在化範囲が広く束縛の弱い電子は、量子力学における『箱の中の粒子』『井戸型ポテンシャル』の例題のように、局在化範囲に対応したエネルギー準位を持つことになる。導電性高分子中における電子や、溶媒中に遊離した電子のような、電子の比局在範囲が比較的広く、高速な光応答を示す系を観測するためには近赤外領域の時間分解分光測定が適していると考えられる。この波長領域に着目し、二つの研究を行った。 第二章において、製作したフェムト秒時間分解可視近赤外分光光度計について述べた。また、フェムト秒時間分解吸収分光の概要についても述べた。この装置は、可視 – 近赤外の領域にわたってスペクトルが移動する「電子の水和初期過程」を観測するために作製した。過渡吸収測定において、スペクトルの観測可能範囲は測定を行うプローブ光の範囲に依存する。過渡吸収測定の多くの場合、可視領域と近赤外領域を分けて測定されたり、サンプリング間隔が波長方向にまばらな測定をされたりすることが多かった。そこで、可視 - 近赤外の境界領域において準連続的なスペクトルが測定可能な装置を開発し、研究に用いた。 時間分解分光測定には、ポンプ―プローブ法を用いた。増幅されたTi:Sapphireレーザー出力をOPAによって波長変換して、シグナル光とレーザー基本波の和周波(波長500 nm)を発生させ、その第二高調波パルス(波長250 nm)をポンプ光に用いた。ポンプ光発生の際の高調波発生で変換されなかった波長500 nmのパルス光を取り出し、厚さ3 mmのsapphire板に集光して白色光を発生させた。白色光発生に500 nmの光を用いて、600から1000 nmの範囲で十分な信号強度を与えるプローブ光の発生に成功した。試料を透過したプローブ光を分光器に導入し、CCD検出器でマルチチャンネル検出した。OKE測定を行うことで、装置の応答時間は140 – 200 fsと見積もられた。 時間分解分光計測によって電子の溶媒和過程を詳細に観測するには、可視 – 近赤外の広い領域にわたって十分な強度をもつ白色プローブが必要不可欠である。白色プローブの発生に、Ti:Sapphireレーザーの基本波800 nmではなく、あえて一度500 nmに波長変換させることで、可視 – 近赤外領域にまたがって測定可能な装置を完成させた。 第三章では、第二章で作製した装置を用いて測定された、電子の水和初期過程における可視近赤外領域の時間分解吸収スペクトルを報告した。 電子は溶液中に放出されたのち、周囲の溶媒に取り囲まれることで安定化され、いわゆる「溶媒和電子」となる。しかし電子の溶媒和過程は、いまだ完全な理解を得られていない。溶液中の電子は吸収帯をもち、その吸収極大は溶媒和の過程(フェムト – ピコ秒)で可視 – 近赤外の波長領域で短波長側へシフトするとされている。この吸収帯の位置は電子の溶媒和の度合いを反映するものの、これまでの分光学的研究では精確な時間分解吸収スペクトルの計測をすることなく議論が行われていた。 水中に発生した電子に由来する吸収スペクトルを、時間-300 fsから5000 fsの範囲において40 fsの間隔で測定した。励起直後より電子に由来する吸収帯が観測され、励起後230 fs以後は吸収極大が現れ、時間とともに高エネルギー側へ移動した。吸収帯の位置の時間変化を解析したところ、1つの指数関数でよく近似された。8回のデータの平均で時定数510 ± 30 fsで移動し、1.73±0.01 eVに収束する結果を得た。シフトの時定数は水分子をイオン化して発生した電子は200 fs以降、単一の機構で溶媒和されることが示唆された。スペクトルの変化に等吸収点のようなものは見られず、溶媒和過程は連続的な変化であると結論付けられる結果を得た。吸収帯の幅はほとんど変化がなく、定性的に吸収極大より低エネルギー側の幅が500 fs以下の時間で減少することが見て取れた。吸収強度の時間変化を求めたところ、時定数200 fsかけて増加することがわかり、これは前駆体の存在を示唆する結果となった。 第四章では、溶液中でのオリゴチオフェンおよびポリチオフェンについての電子励起状態を測定する実験を行った。長さがチオフェン環3つから8つ分のオリゴチオフェンと、ポリチオフェンの試料をそれぞれトルエン中に溶解させ、時間分解近赤外吸収スペクトルを測定した。 測定の目的は「溶液中において、比較的単純な共役系の励起状態はどこまで伸長するのか」という疑問があった。軌道が共役を起こす際、共役に加担する原子は一般に、同一平面上に存在しなければならない。一般に、短い共役であればその安定性から原子の平面性は保たれ、構造式から予想できる範囲で軌道は共役している。しかし、長い共役を持つはずの高分子では、立体障害、周囲の環境からの作用、結合の変化などの理由によって、非局在範囲が制限されているという議論がある。チオフェン環をつなぐσ結合まわりで回転し、チオフェン環の二面角がねじれるのではないかと予想されている。 またポリチオフェンの物性を評価する際に、その少量重合体であるオリゴマーをモデル分子として用いることが考えられる。短いオリゴマーの情報を比較・検討することで、それを伸ばしたポリマーの長さによる規則性を見出すことができる。また、ポリチオフェンが部分的な構造を作っていた場合、それが模擬的に短いオリゴマーで再現されるという見当をつけることができる。 オリゴチオフェンの吸収スペクトルおよび過渡吸収スペクトルをもとに、ポリチオフェンのデータとの比較をして電子状態を議論した。その結果、S1←S0の遷移では、長さが3 – 8の範囲で吸収帯が低エネルギーシフトし、共役の伸長が確認された。しかし、励起状態における過渡吸収Sn←S1の遷移では、分子の長さが7から8に伸ばした際に吸収の低エネルギーシフトが見られず、励起の非局在範囲がチオフェン環7つ分程度まで制限されている可能性を示唆した。ポリチオフェンとの比較を行うと、ポリチオフェンは溶媒中においてS1←S0の遷移ですでに電子の非局在範囲が限定されており、励起後の過渡吸収であっても共役の非局在範囲はチオフェン環5つから6つ分にとどまるような結果となった。また、オリゴチオフェンにおける、S1状態近傍の低励起一重項状態のエネルギー位置を実験的に決定した。 溶液中・液相中では、隣接する分子が互いに相互作用しつつも、分子の位置の組み換えは起こる複雑な系である。本研究は、その系において、溶媒和や、分子の折れ曲がりという特徴的な事象を時間分解分光法によって取り扱った。複雑なダイナミクスに対して、それを測定するのに適した分光法を選択し、装置を作り上げて測定を行った。精度よく、スペクトルの時間変化を現代の技術をもってとり扱うことで、これまで報告のなかった知見を得ることができた。, application/pdf}, school = {学習院大学, Gakushuin University}, title = {フェムト秒時間分解可視近赤外分光計の製作と電子の水和初期過程および溶液中のオリゴチオフェン励起状態の観測}, year = {}, yomi = {オキノ, シュンノスケ} }