@phdthesis{oai:glim-re.repo.nii.ac.jp:00005267, author = {依田, 尚也 and Yoda, Naoya}, month = {2021-12-09, 2021-12-09}, note = {心理検査は,心理アセスメントの中核的な手段である。アセスメントという側面だけでなく,その受検,および結果のフィードバックを受ける体験(以下,心理検査体験)の治療的機能について,つまり,検査者からの押しつけではなく,被検査者が自らの手で新たな発見の糸口をつかみ,自己理解を深め,今後の人生への示唆を得るに至る可能性について,近年着目されるようになった。海外では,心理検査そのものを治療的介入とみなすアプローチが提唱され,その治療的機能について検証が積み重ねられている。我が国においても,このようなアプローチのさらなる発展が望まれるが,現状では十分に研究がなされているとは言えない。そこで,本論文では,代表的な心理検査の1つであるロールシャッハ・テストについて,その受検やフィードバック体験がどのようにして治療的機能を有するに至るのか,検討することを目指した。  本論文は全6章から構成される。  第1章では,心理検査体験の治療的機能に関する国内外の研究動向について概説した。これまで,主にアメリカにおいて,心理検査を用いたアセスメントを“治療的介入”とみなすアプローチであるPATI(Psychological Assessment as a Therapeutic Intervention)の研究が積み重ねられてきた。PATIは,心理検査を検査者—被検査者間で協働的に用い,目の前の被検査者に沿った形でフィードバックを行うアプローチである。PATIは,実証的研究を通して“治療的効果がある”と結論づけられた一方で,そのメカニズムについては明確な答えが出されず,研究課題として残されていた。我が国においては,同テーマに関する研究の積み重ねは十分とは言えない現状である。依田(2016)および依田・田島(2014)による調査研究の結果から,我が国の心理専門職の初心者は,理論的な積み重ねが少ない中で,十分な訓練を受けたと感じられないまま,いかに被検査者に結果をフィードバックするか苦悩を抱えながら実践を重ねている途上にあることが示された。以上を踏まえ,我が国においても心理検査体験の治療的機能について研究を推進することの必要性が主張された。  第2章,第3章は,依田(2014)および依田(2018a)を基に,本論文のために加筆・修正したものである。第2章では,心理検査の中でも“ロールシャッハ・テスト”に着目し,特にフィードバックについてどのような議論,研究がなされてきたのかを論じた。我が国における代表的なロールシャッハ・システムとして,包括システムと片口法の2つが挙げられる。包括システムについては,Rorschach Feedback Session(以下,RFBS)という協働的なフィードバック手続きが提唱されている。対して,片口法については,フィードバックの方法やルールは現在のところ明確に体系化されておらず,さらなる研究の展開の必要性が明らかになった。 第3章では,最新のロールシャッハ・システムである“Rorschach Performance Assessment System(以下,R-PAS)”について,誕生の背景や,その特徴などについて概説した。R-PASは,これまでのロールシャッハ・テストでは見られなかった“結果の標準得点化”を取り入れ,被検査者の結果が一般的か,それとも逸脱しているのか,プロフィールを用いて“可視化”することが可能となった。フィードバックにおいても,この“可視化”が被検査者の心理検査体験に大きな影響を及ぼすのではないかと推察された。しかし,R-PASのフィードバックに着目した研究はこれまで行われておらず,具体的なフィードバック手続きも存在しなかった。  そこで,第4章では依田(2017a)および依田(2018b)を本論文のために加筆・修正し,R-PASのフィードバックについて検討した。まず,R-PASによる協働的なフィードバック手続きを考案し,試行事例を通して,R-PASの実施,スコアリング,解釈,そしてフィードバックという一連のプロセスがいかにして行われるのか,その詳細を示した。さらに,非臨床群の成人5名に対し,R-PAS,およびその結果のフィードバックを実施後,フィードバック時の反応を質的分析によって整理し,被検査者にどのような体験が生じるのか検討した。最後に,SCT(文章完成法)とR-PASというテストバッテリーを組んだ臨床実践事例を通して,R-PASによるフィードバック体験についてさらに論考した。R-PASの特徴である“標準得点化されたプロフィール”は,被検査者へのフィードバックの根拠となり,説得力が強められた。また,協働的なフィードバックは,被検査者の新たな気付きや自己理解を促し,それ自体が治療的介入となる可能性があると考えられた。ただ,プロフィールによって“標準”からの逸脱が可視化されるゆえに,被検査者の不安が喚起されやすく,逆に逸脱していないことも,被検査者によっては「つまらない」,「偏りがあってもいいのに」といったネガティブな体験を生じさせうることも示された。標準得点化されたプロフィールはメリットだけをもたらすわけではないということに,心理専門職は十分留意する必要があると考えられた。さらに,“検査者-被検査者間の協働”は,あくまで治療的介入となるための前提条件の1つである。R-PASにおいては,力動的視点を重視して反応を吟味する片口法での解釈のように,内容分析や系列(継起)分析に着目する“個性記述的解釈”が行われる。どこか無機質な法則定立的根拠,つまり標準得点化されたプロフィールに基づく所見を潤色し,より個々の被検査者にとって妥当性を持つフィードバックを実践する上で,個性記述的解釈は重要である。そして,目の前の被検査者に沿った個性記述的解釈を行うためには,施行段階において1つ1つのロールシャッハ反応の背景にあるイメージを共感的に理解する必要がある。そこで,フィードバックが治療的介入となるか否かは,施行段階において検査者の果たす役割によって左右されるであろうこと,換言すれば,施行段階を含む心理検査体験全般が治療的介入として機能しうることが論じられた。 第5章は,依田(2017b)を基に,本論文のために加筆・修正したものである。第4章で論じた“1つ1つのロールシャッハ反応の背景にあるイメージを共感的に理解する”ことは,単純な作業ではない。なぜならば,ロールシャッハ・テストでは,検査刺激であるインクブロットの持つ性質によって,非常に侵襲的なイメージが生じうるからである。本章では,片口法を施行し,フィードバック後に長期に及ぶカウンセリングへと発展した事例を取り上げ,心理検査体験がどのような過程を経て治療的機能を有するに至るのか,特にロールシャッハ・テストに着目して考察した。本事例における心理検査体験,およびカウンセリングの経過,そして心的外傷を抱える者への心理療法に関するこれまでの知見を踏まえ,ロールシャッハ・テストは被検査者の傷つきを曝し,心理的な痛みをもたらすと同時に,その傷つきや痛みを検査者との間で共有するという,心理療法的なプロセスの“基点”になりうると考えられた。 最後の第6章を,本論文の結論とした。ロールシャッハ・テストを受検し,その結果をフィードバックされることは,被検査者が自覚していない,もしくはとても表には出せず,あえて奥深くにしまい込んできたものが掘り出され,表に曝されてしまう体験となり得る。インクブロットを挟んで被検査者に対峙した検査者は,それほどまでの体験となる可能性についての覚悟を求められる。掘り出された心の表現がどのように受けとめられ,抱えられたのか,その体験は被検査者の中で鮮明に残り続けるだろう。そして,反応を出した時の検査者の様子,質問段階における口調,フィードバックにおいて選ばれる言葉など,全てが心理検査体験の意味を左右しうる。換言すると,心理検査体験を“基点”として,被検査者の人生の物語は良くも悪くも検査者次第で変わっていく可能性がある。心理専門職は,被検査者の人生に深く関与することの責任の重さを胸に刻み,心理検査実践における自らの姿勢を吟味し続けねばならない。, application/pdf}, school = {学習院大学, Gakushuin University}, title = {心理検査体験の治療的機能に関する研究-ロールシャッハ・テストに着目して-}, year = {}, yomi = {ヨダ, ナオヤ} }