@phdthesis{oai:glim-re.repo.nii.ac.jp:00004858, author = {林, 匡史 and Hayashi, Masafumi}, month = {2021-02-25, 2021-12-09}, note = {生物の遺伝情報を担っているゲノムDNAは紫外線や活性酸素などの外的、内的要因によって常に損傷を受けている。DNA損傷はDNA損傷修復経路によってすみやかに修復されるが、このような傷はゲノム全体のランダムな位置に起こる。そのため、DNA複製中に複製ポリメラーゼが損傷部位にたどり着くと、複製フォークの進行が阻害されてしまう。複製阻害は誤塩基対形成や複製フォークの崩壊などゲノムの不安定性を引き起こす主要な原因となるため、生物は複製阻害を解消するメカニズムとしてDNA損傷トレランス(DDT)経路を獲得してきた。DDT経路は複数のユビキチン関連タンパク質によって促進され、DNA損傷を乗り越えることで複製阻害を解消する。DDT経路は複製阻害の解消に働く一方で、突然変異を誘発するメカニズムとしての側面も持っており、その働きは厳密に制御されなければならない。さらに、複製阻害の解消には相同組換え(HR)経路も関与しているため、DDT経路とHR 経路がどのように使い分けられているのか、もしくは、どのように協調して働くのかなど、その制御機構の実態は不明である。これに加えて、真核生物のDNAはヒストン8量体に巻き付いたヌクレオソームを形成し、さらにクロマチン構造を形成している。このような構造は複製阻害解消の際に障害となる一方で、複製阻害の解消メカニズムやその経路選択に関与している可能性がある。本研究では、DNA損傷トレランス経路の制御機構の解明を目的とし、①DDT経路における新しい制御メカニズムについて、②ヌクレオソームによるDDT経路の制御メカニズムについて解析を行った。 (1)DDT経路における新しい制御メカニズムの解析 本研究では、DDT経路に関与するタンパク質について新規の翻訳後修飾の検出を試みた。出芽酵母のDDT関連タンパク質にMycまたはFlagタグを導入することで、検出系を構築した。また、リン酸化特異的に結合するPhos-tag分子を用いてSDS-PAGEを行うことで、SDS-PAGEでは検出できないリン酸化の検出を行った。その結果、Rad5においてPhos-tag依存的なシフトアップが検出された。このシフトアップは脱リン酸化酵素で処理することで消失したことから、リン酸化であると結論づけた。部分欠失変異体やアミノ酸置換変異体の解析から、Rad5のリン酸化がアミノ酸129番目と130番目のセリン残基で起こることが分かった。さらに実験を行った結果、(1)Rad5-S130のリン酸化はS期にCDKによってリン酸化されること。(2)Rad5の発現量がS期に増加し、それに伴いリン酸化レベルが増加すること。(3)リン酸化が起こらないrad5 S130A変異体ではタンパク質量の変動が見られないこと。さらに、(4)非リン酸化型Rad5と比べてリン酸化型Rad5 の半減期が短いことを明らかにした。 以上の結果から、Rad5のリン酸化はRad5の量的変動に関与していると考えられる。一方で、Rad5の非リン酸化変異体はDNA損傷剤に対して感受性を示さなかった。これはRad5のリン酸化がDNA損傷剤に依存しないことと一致している。しかしながら、Rad5の過剰発現によって複製ストレスが上昇するという報告があることから、Rad5-S130のリン酸化が完全になくなった場合、タンパク質量の制御が破綻することで、特定のストレス条件下や特定の細胞周期、または複合的な条件でRad5が有害なレベルに蓄積すると、ゲノムの完全性や細胞の生存に有害となる可能性がある。 (2)ヌクレオソームによるDDT経路の制御メカニズムの解析 本研究では、ヌクレオソームによるDDT経路の制御メカニズムについて明らかにするため、複製ストレスに影響を及ぼすヒストン変異体の単離と解析を行った。出芽酵母のヒストンH3/H4のアミノ酸置換変異体コレクションを用いて、DDT経路を欠損したrad18欠損細胞と掛け合わせ、rad18ヒストン2重変異体コレクションを作製した。333株のrad18ヒストン2重変異体を用いたDNA損傷剤に対する感受性スクリーニングの結果、rad18 単独欠損株よりも感受性を示した株が49種類、耐性を示した株が6種類得られた。これら6種類のヒストン変異箇所は全てヌクレオソームの表面に位置しており、特にH3R69、H3E73、H4N25については側鎖間の相互作用が可能な距離に存在し、DNA との接触も可能な場所に位置していた。耐性を獲得する変異が密接した領域に存在することから、これらは同一のメカニズムで耐性を獲得していると考えられる。そこで、この領域をSDD(Suppressor of DNA damage tolerance defect)領域と名付け、SDD 変異体に対する遺伝学的な解析を行った。その結果、SDD変異体はDDT経路欠損時にHR経路の活性化によって耐性を獲得することが分かった。遺伝学的な相互作用解析に加え、PCNA のユビキチン化修飾や突然変異及び組換え頻度の測定などから、(1)SDD 変異体はHR 経路の活性化だけでなく、DDT 活性の低下を引き起こしており、ヒストンSDD 領域がDDT 経路の活性促進に関与していることを明らかにした。それに加えて、いくつかのクロマチンリモデリング因子との相互作用解析から、(2)SDD 変異体によるHR 経路の活性化はIno80クロマチンリモデリング複合体に依存して起こることを明らかにした。 ヒストンSDD領域は、DDT 経路の活性化及び、Ino80 複合体を介したDDT 経路とHR 経路の制御を担うヌクレオソーム機能において重要な役割を果たしていることが明らかになった。特に、SDD変異体では、Ino80のクロマチンへの結合が増加し、INO80を欠損した場合はDNA損傷に対して非常に高い感受性を示す。以上の結果から、SDD領域は複製ストレス下において、INO80複合体に依存せずに複製阻害の解消メカニズムを促進できる可能性があると考えられる。, application/pdf}, school = {学習院大学, Gakushuin University}, title = {DNA複製阻害時に働くDNA損傷トレランス経路の制御メカニズムの解明}, year = {}, yomi = {ハヤシ, マサフミ} }