@phdthesis{oai:glim-re.repo.nii.ac.jp:00004720, author = {杉本, 建 and Sugimoto, Takeru}, month = {2020-02-07, 2021-12-09, 2021-12-09}, note = {対称位置に2つ以上の水素原子核を持つ分子は, 核スピン異性体を持つ。異性体の存在比は, ボルツマン分布を仮定することにより, 核スピン温度と1対1に結び付く。孤立系では, 核スピン異性体間の転換は非常に遅い。そのため, 天文学では, 核スピン温度をもとに彗星の形成環境について議論が行なわれており, 彗星における核スピン温度は彗星形成時の環境温度を保持していると考えられてきた。しかし, 最近の研究により凝縮系では核スピン転換が加速するという実験結果が報告されており, これは彗星において核スピン転換が起こらないという従来の仮説を否定する。核スピン温度の正確な解釈を行なう上で, 核スピン転換機構の解明は重要であり, 近年, 天文物理学において関心が持たれている。  CH4分子は核スピン1/2の水素原子核(陽子)を4つ有するため, その全核スピンはI =0, 1, または2をとり, それぞれ, パラ, オルソ, メタ異性体に対応する。陽子はフェルミ粒子であり, 2つの陽子交換に対して波動関数が反対称になるという制約を受ける。これにより, 回転状態と核スピン状態は次のような組合せのみが許される:(J =0, I =2), (J =1, I =1), (J =2, I =0, 1), (J =3, I =1, 2)。本研究では, これらの結び付きを利用し, 赤外分光法によってCH4の回転緩和を観測することで, 核スピン転換を測定した。赤外分光法を用いる利点としては, パラの観測が可能であること, また, 同一の核スピン状態をもつ配向性の異なる分子を, 共鳴振動数の違いにより区別できることが挙げられる。  結晶CH4は20.4 Kに相転移点を持ち, 高温側を相Ⅰ, 低温側を相Ⅱと呼ぶ。それぞれの結晶構造はYamamotoらにより理論的に提唱されている(EJKモデル)。EJKモデルによると, 相Ⅱには2種類の配向性を持つCH4分子が存在し, 一方は特定の方向の周りを秤動(Libration)し, もう一方は, 周囲の配向秩序により占有サイトで八極子場が互いに打ち消し合うため, ほぼ自由に回転(Rotation)する。本稿では, これらを順にL種とR種と名付ける。相ⅡにおけるR種の核スピン転換は, 核磁気共鳴や中性子散乱の測定により古くから研究されている。多くの先行研究では, オルソとメタの転換は数十分のオーダーで起こるのに対し, パラが関わる転換は極めて速いと考えられてきた。  一方, 希ガスおよびパラH2マトリックス中のCH4の核スピン転換も研究されてきた。CH4分子はこれらのマトリックス中でほぼ自由に回転するため, 相ⅡでのR種と同様に, オルソ−メタ間の転換が観測されている。また, Ar, Kr, パラH2マトリックスにおいて, CH4の核スピン転換率は強い温度依存性を示すことが報告された。これは, 核スピン緩和による余剰エネルギーがマトリックスのフォノン系に散逸することに由来する。核スピン緩和には直接過程と間接過程の2種類があるが, 後者の詳細な緩和経路は明らかになっていない。  本研究では, 結晶CH4およびXeマトリックス中におけるCH4分子の核スピン転換の赤外分光研究を行なった。振動回転スペクトルの時間変化の解析から緩和率を導出し, フォノンを介在した核スピン緩和の詳細な機構および回転準位への結晶場効果を考察した。  実験装置は真空容器, HgCdTe検出器, フーリエ変換赤外分光器, ガス導入系から成る。1×10-8 Paの真空容器内に室温のCH4ガス(または, XeとCH4の混合ガス)を導入し, 液体ヘリウムにより5 Kに冷却した金基板上に凝縮層を形成した。蒸着後, 試料を昇華温度の近くまでアニールし, 結晶構造を整えた。アニール後の冷却過程における核スピン転換をできるだけ抑えるために, 冷却機構を改良し, 5秒以内の急冷を実現した。赤外スペクトルは, 0.5 cm-1もしくは1.0 cm-1の分解能で数分毎に測定した。 7 K以下の相Ⅱの赤外吸収スペクトルの基本音(ν3 ,ν4 )および結合音・倍音領域には, R種に由来する振動回転ピークとL種に由来する振動秤動ピークが現れた。各ピークの帰属は, 吸収強度の時間変化と波数間隔をもとに決定した。以下, ν3振動領域について述べる。時間経過に伴って, R(0)ピークの強度は単調増加した。一方, P(1)およびR(1)ピークの強度は測定開始から30分間は増加し, その後, 緩やかに減少した。急冷直後に現れた3018 cm-1のピークはQ(2)遷移によるものとした。このピークの強度は時間経過に伴って, 急激に減少した。これらのピークをガウス関数でフィッティングし, 積分強度を時間に対してプロットした。積分強度の時間依存性は, IX(t) = I∞X + A1Xexp(−k1t) + A2Xexp(−k2t)によりフィッティングした。ここで, k1, k2は緩和率, I∞X, A1X, A2XはX(=R(0),R(1),Q(2))遷移のフィッティング係数である。最小二乗法により決定したk1, k2は5.2 Kでそれぞれ, 0.48 h-1, 2.3 h-1であり, R(0), R(1), Q(2)ピーク強度の時間変化は, 上記の関数により良く再現された。 Xeマトリックス中のCH4, CD4では, ν3およびν4振動領域に4つの顕著な吸収ピークが現れた。これらは低波数側からそれぞれ, P(1), Q(1), R(0), R(1)遷移によるものとした。相Ⅱの場合と同様に各ピークの積分強度を導出し, それらの時間依存性を単一指数関数によりフィッティングした。5.3 Kの時に得られた緩和率kは, ~0.6 h-1であった。また, 5.1−11.5 Kの試料でも同様の測定を行なった。  以下, 結果について考察する。結晶CH4 (相Ⅱ)については, 振動回転ピーク強度の時間変化が2つの指数関数の線型結合によって記述された。これは, 3種の核スピン異性体間の転換に起因し, R種が受ける結晶場の対称性がEJKモデルで想定されるO点群より低下することにより, J =2およびJ =3準位における核スピン縮重が解けたことを示唆する。対称性低下の要因として, L種の作る格子が歪んでいる, もしくはR種の重心が占有サイトの中心からずれている, という2つの可能性がある。  Xeマトリックス中のCH4の場合, 2種の核スピン転換を記述する単一指数関数によるフィッティングを行なった。P(1), Q(1), R(0), R(1)ピーク強度の時間変化の解析から導出した緩和率は~0.6 h-1で一致しており, これは, 振動回転スペクトルの時間変化がオルソ−メタ間の核スピン転換に起因することを保証する。パラが関わる転換が見られなかったのは, 結晶Xeでは対称性の低下が抑制され, 核スピンの違いによる回転準位の分離が, 結晶CH4 (相Ⅱ)に比べて小さいことに由来すると推察した。加えて, 5.1−11.5 Kでの核スピン緩和率は, 強い温度依存性を示した。この温度依存性を解析し, 間接過程における始状態と中間状態のエネルギー差をΔ=50±6 Kと求め, 間接緩和ではJ =3準位を経由する緩和過程が支配的であると結論した。また, 解析結果から, 8.5 K以下では直接緩和が, 8.5 K以上では間接緩和が優勢に働くことを明らかにした。  本研究では, 赤外分光測定により凝縮系におけるメタン分子の核スピン転換機構を解明した。結晶CH4 (相Ⅱ)では, 冷却機構を改良することで, 3種の核スピン異性体間の転換の観測に成功した。また, 得られた緩和率をもとに相Ⅱ中でほぼ自由に回転するCH4分子の受ける結晶場について考察し, サイト対称性の低下を指摘した。この成果は, 相Ⅱではパラが関わる核スピン転換は極めて速いという従来の見解を覆すものであり, 今後の凝縮系におけるCH4の核スピン転換研究の礎となる。Xeマトリックスでは, 核スピン緩和率の温度依存性の解析からフォノンを介在した間接緩和における中間状態を特定した。, application/pdf}, school = {学習院大学, Gakushuin University}, title = {凝縮系におけるメタン分子の核スピン転換の赤外分光研究}, year = {}, yomi = {スギモト, タケル} }