@phdthesis{oai:glim-re.repo.nii.ac.jp:00004719, author = {鍋山, 航 and Nabeyama, Wataru}, month = {2020-02-05, 2021-12-09, 2021-12-09}, note = {1000人に1人の割合で生ずる先天性難聴は、遺伝的な原因が全体の約半数を占めており、難聴に関連する遺伝子はおよそ100種類が知られている。聴覚を司る内耳の蝸牛は非常に複雑な構造で、種々のタンパク質が役割分担をして聴覚受容を担っているが、これらの遺伝子に変異があることで難聴となる。遺伝性難聴の分類は、難聴以外の随伴症状の有無により症候群性難聴と非症候群性難聴に分けられる。両者に共通している原因遺伝子としてPendred症候群(PDS)の原因遺伝子SLC26A4が挙げられる。PDSでは難聴以外にその随伴症状として、甲状腺腫と内耳奇形が報告されており、一方の非症候群性難聴にもSLC26A4遺伝子の異常が共通してみられる。加えて、SLC26A4の遺伝子異常にともなう随伴症状は進行性である。このようなことから、SLC26A4の遺伝子変異を治療や創薬研究の目標とすることは、優先的であり、有効であると考えられる。 SLC26A4からつくられるPendrinは、アミノ酸780個からなる膜貫通型タンパクで、主に内耳に発現し、塩化物イオン、重炭酸イオンなどの陰イオンとヨードの輸送を行っている。細胞内において変異型Pendrinは、正常なPendrinが小胞体で発現した後に細胞膜へと移行するのに対して小胞体に蓄積し、本来あるべき細胞膜へ移行することができない。このため、内耳コルチ器内のラセン隆起および外ラセン溝細胞においては陰イオンの輸送が障害され、水管拡大の症状をともない難聴を示す。そこでこれを改善する試みとして先行研究が行われ、古くから鎮痛作用として知られているサリチル酸が、変異型Pendrinに対しての分子シャペロン活性を示し、変異型Pendrinを小胞体から細胞膜へ移行させ再活性化することが明らかにされた。 本研究では、サリチル酸による変異型Pendrinの細胞内局在変化に着目し、変異型Pendrinを恒常的に発現するStable細胞の確立、網羅的画像解析による迅速な薬剤スクリーニング法の開発を行い、サリチル酸とその類縁体から有効な細胞膜移行活性を有する化合物の探索を行った。  第二章では、変異型Pendrin(P123S)恒常発現(Stable)細胞を樹立した。 先行研究によりSLC26A4遺伝子の変異のうち主要な10種類のミスセンスの変異型Pendrinの作製と、ミスフォールドからの薬剤によるレスキューが報告されている。10種類の変異型Pendrinを遺伝子導入したHEK293細胞に対するサリチル酸の分子シャペロン活性が調べられており、サリチル酸応答性を示す有用な4種類(P123S、M147V、S657N、H723R)の変異型Pendrin遺伝子が特定されている。ここで行われた一過性(Transient)の遺伝子導入と解析の場合、1)細胞播種、2)遺伝子導入、3)薬剤添加、4)免疫染色、5)細胞内局在変化 の過程を必要とし、実験ごとの遺伝子導入と遺伝子導入効率の安定性、化合物多数を用いた迅速なスクリーニングには課題があった。そこで本研究では、変異型Pendrin(P123S)を恒常的(Stable)に発現する細胞の樹立を検討した。具体的には、遺伝子導入後のHEK293細胞はネオマイシン耐性である性質を利用し、G-418 Sulfate存在下で10日間連続培養後、その生え抜きを選抜した。Pendrin発現とサリチル酸応答性を確認した後、これらを96well培養プレートで1細胞/1wellに限界希釈し、シングルコロニー由来の単クローンを得た。得られた単クローン細胞を再度、Pendrin発現・サリチル酸応答性の確認後、細胞のクローニング操作を合計2回行った。このようにして、野生型Pendrin発現細胞(Wt)と変異型Pendrin(P123S)発現細胞(PH1-1H1)を得たことで、遺伝子導入の段階を省くことが可能となり、第三章のMorphology解析に有用な細胞株であると判断した。 第三章ではCellInsightTMを用いて細胞のMorphology解析のためのパラメーターを検討した。   変異型Pendrin(P123S)は細胞質に集積し、野生型Pendrin(Wt)は細胞膜に局在する。一方、10 mMサリチル酸を加えることで改善し、Pendrinの細胞膜局在が上昇し細胞質局在は減少する。この局在変化について、従来の手法では、免疫染色の後共焦点レーザー顕微鏡にて得られた画像を画像解析ソフトFluoViewTMで取込し、細胞膜・細胞質の蛍光強度を無作為に100ポイント測定して評価していた。本研究では96well培養プレートを用いた迅速な薬剤スクリーニングを目的にこれを改良した。細胞イメージアナライザーCellInsightTMによる計測は、96well内を100フィールドに区分し、各フィールド内最大100個細胞を検出し、全細胞のタンパク質局在を網羅的に解析し蛍光強度を測定できる。そこで解析プログラムMorphology V4の解析パラメーターの検討を行った。複数の検討より、細胞の外周を解析の基準であるCh1とし、核をCh2とした。そしてCh1から内側へ5 pixel幅を細胞質Ch3(Cytoplasm:C)とし、Ch1から内側2 pixel幅を細胞膜(Plasma Membrane:M)Ch4とした。次にPH1-1H1細胞に対してサリチル酸による変異型Pendrin移行活性を評価した結果、Ch4(M)の上昇はみられなかったものの、サリチル酸濃度依存的Ch3(C)の減少を確認することができた。(Ch4は、細胞外周の微小な凹凸や輪郭の正確なトレースが困難で、また、背景の黒色領域も合わせて検出したため、正確な細胞膜の蛍光強度が検出できなかった。) このことから、スクリーニングの基準を、Ch3(C)蛍光強度の減少として決定し、第四章のサリチル酸類縁体の移行活性スクリーニングに用いた。 第四章では、サリチル酸類縁体による変異型Pendrin移行活性スクリーニングと候補化合物の探索を行った。 サリチル酸とその類縁体は、96well培養プレート中PH1-1H1細胞に12時間添加し、免疫染色の後、第三章で確立したCellInsightTMによるMorphology V4でCh3を基準にスクリーニングした。その結果、化合物の濃度依存的にCh3(C)減少を示す6つの候補化合物を発見した。さらに、FluoViewTMによる詳細な蛍光強度の測定をし、細胞膜(Plasma Membrane:M) / 細胞質(Cytoplasm:C) = M/C比を調べた結果、サリチル酸は10 mMでM/C比が1.0であるのに比べ、M/C比が0.3 mMで1.5、0.1 mMで0.9を示す化合物(2-aminophenyl)methanolを見い出した(化合物番号8)。すなわち、化合物8はサリチル酸に対して活性がおよそ100倍高いことを示した。さらに、薬剤を培地から取り除いた後24時間までの細胞内薬剤持続性効果を検討した結果、サリチル酸は薬剤除去後6時間で効果が失われたのに対して、化合物8は12時間後まで効果が持続した。以上より、化合物8は変異型Pendrinに対して細胞膜移行活性を有する候補化合物であることが示唆された。 本研究の結論 1.限界希釈法による細胞のクローニングで、野生型Pendrin発現細胞(Wt)と変異型Pendrin(P123S)発現細胞(PH1-1H1)を得た。Wt細胞はG-418 Sulfate 存在下で恒常的に野生型Pendrinを発現し、細胞膜局在を示した。PH1-1H1細胞はG-418 Sulfate 存在下で恒常的に変異型Pendrinを発現し、細胞質に局在を示した。これに10 mMサリチル酸を12時間添加することで細胞膜局在を示した。得られたPH1-1H1細胞は、サリチル酸類縁体を用いた変異型Pendrin移行活性スクリーニングに有用な細胞である。 2.CellInsightTMによるMorphology解析パラメーターの条件検討を行った。細胞外周を解析の基準であるCh1とし、Ch1より内側2 pixelから7 pixelの5 pixel幅を細胞質Ch3(Cytoplasm:C)として設定することで、サリチル酸濃度依存的なCh3(C)の減少が確認できた。すなわち、化合物濃度依存的なCh3(C)の減少に着目することで、96 well培養プレートを用いた迅速かつ網羅的な、変異型Pendrin移行活性スクリーニングが可能となった。 3.変異型Pendrin移行活性スクリーニングより6つの有効な候補化合物を発見した。中でも化合物8 ((2-aminophenyl)methanol)はサリチル酸に対して細胞膜移行活性が100倍高く、加えて細胞内薬剤持続的効果も長く12時間を示した。すなわち、化合物8は変異型Pendrinの細胞膜移行活性を有する有用な候補化合物であることが示唆された。, application/pdf}, school = {学習院大学, Gakushuin University}, title = {遺伝性難聴に対する有効な薬剤のスクリーニング法の確立と候補化合物の探索}, year = {}, yomi = {ナベヤマ, ワタル} }