@phdthesis{oai:glim-re.repo.nii.ac.jp:00004392, author = {中島, 由宇 and Nakashima, Yu}, month = {2018-08-02, 2021-12-09}, note = {本論文は,関係論という視点から,発達障碍,特に,知的障碍における,自己発達とその臨床心理支援の可能性について論じる。臨床心理学においてこれまで十分に研究が蓄積されてこなかった知的障碍について,発達障碍概念の上に位置づけ,臨床心理学的視座に立った理解と支援を進めるための理論的枠組みを構築しようとするものである。さらに,発達障碍臨床において,彼らの自己を関係性においてまなざし,自己発達を支援することの意義を,理論的にかつアクチュアルに示そうとするものである。本論文では,筆者が臨床実践において強いインパクトを受け,臨床へ向かう原動力としてきた,知的障碍を中心とする重い発達障碍をもつとされる彼らの変容に立ち会った体験について,深く掘り下げていくこととする。筆者の体験とは,“彼らの思いがまさに彼ら自身の思いに他ならないと感じせしめるような説得力と鮮やかさで伝わってくるようになり,彼らが確かに生きてそこに在るという存在感が私の前に立ち現われ,彼らのその生き生きと堂々としたありように,私が同じこの社会を共に生きる者として深く励まされるような彼らの変容”に立ち会ったことであった。彼らの変容を前に揺さぶられた,彼らに付された概念である発達障碍について,概念の捉え直しを行う。そして,彼らの変容を,彼らの自己発達と捉え,その特徴を検討すると共に,彼らの自己発達を支え促す臨床心理支援である自己発達支援のあり方について検討する。本論文では,発達障碍の機能障碍の中でも,知的障碍に焦点化する。自己発達の困難とその臨床心理支援について比較的明示的で研究蓄積の多い自閉症スペクトラムを参照枠としながら,知的障碍における自己発達の困難という“見えにくい”障碍を可視化しようとする。本論文は,文献研究編と事例研究編からなる。文献研究編では,第1部で発達障碍概念について,第2部で本論文の基本的視座である関係論について,文献研究を行う。まず,第1部では,発達障碍という概念の捉え直しを行う。その概念成立過程と構成要件を見れば,決して盤石な科学的根拠をもつ概念ではないことが明らかとなる。そして,発達障碍概念の中心的な機能障碍である知的障碍が,日本において発達障碍概念から分断された経緯を示す。その上で,発達障碍が,知的障碍をはじめとする発達早期に明らかとなる精神神経発達の機能障碍をもつとされるクライエントと,周囲の他者,セラピストとの関係性において立ち現われる相対的な構成概念であると捉えることの合理性を示す。さらに,臨床心理学研究としてこうした発達障碍観に立つには,臨床心理学のもつ本質的な構造的問題を直視し,クライエントとセラピストの共生を目指して,セラピストが,クライエントとセラピストそれぞれの自己をまなざし,共感的理解に基づいてその関係性をつぶさに捉えようとすることが重要であることを論じる。ここにおいて,発達障碍の臨床心理学的研究における理論的枠組みとなる関係論が浮かび上がる。そこで,第2部では,臨床心理学研究における関係論について整理する。第1章では臨床心理学における関係論の理論的系譜をたどる。関係論が,臨床心理学における主要なグランドセオリーであることを歴史的展開から明らかに示す。第2章では,関係論という枠組みにおいて,アクチュアルな相互作用としての“関係性”における不可欠な構成要素であり,人が関係性を生きる確かさの根拠である“自己”を定義づける。筆者の捉えた彼らの変容とは,筆者と彼らの関係性において展開したことであると共に,アクチュアルな関係性において筆者と彼らがそれぞれ暫定的に取り結ぶ自己というまとまりの変容であると言うことが可能であり,こうした関係性の展開を“関係発達”,自己のありようの変容を“自己発達”と本論文では捉える。そして,これらの阻害は,“関係性障碍”および“自己(発達)の障碍”であり,本論文における発達障碍概念とは,関係性障碍および自己の障碍のあらわれ方のひとつと位置づけられる。また,関係論的な心理療法の技法の要点を,“ホールディングの態勢”,“アクチュアリティに開かれた態度の志向”,“情動調律の志向”,“個別性とコンテクストの重視”という4点に整理する。関係論的な心理療法とは,関係性に即して変容する柔軟な構造で展開するクライエントとセラピストのかかわり合いの間主観的領域において,セラピストからほどよくホールディングされながら,安心感をベースに,クライエントが自己性と他者性を感受できるようにすることにより,クライエントの自己発達を促進する支援として捉えられる。続く第3章で,臨床的アクチュアリティに迫る研究方法論として本論文で主に行う事例研究法について整理する。最後に第4章では,主な機能障碍として本論文で検討する知的障碍と,参照する自閉症スペクトラムについて,自己発達と心理療法の先行研究を概観する。それにより,まず,関係性における個別的な自己をアクチュアルに捉えることによって自己という包括的概念に光を当てる研究の必要性が浮かび上がる。この研究課題に応えようとするのが続く第3部である。次に,個々の機能障碍の枠内に留まっている専門知に架橋し,“発達障碍の心理療法”という枠組みにおいて概括的に捉え,その上で相違点を明らかにしていく実践知を集積する必要性が見出される。この研究課題に応えようとするのが第4部である。第3部,第4部は事例研究編となる。第3部では,自閉症スペクトラムの特性が優位である成人事例の自伝分析(第1章)と,自閉症スペクトラムと重度知的障碍をもつ子どもと母親の関係の参与観察によるエピソード記述(第2章)という異なる研究手法を用いて事例を検討する。第4部で,自己発達支援の実践事例を検討する。いずれも,きわめて重篤な自己発達課題を抱える事例であるが,まさにこちらが深く励まされるとしか言いようのない鮮やかな自己発達を示している。中等度から軽度の知的障碍に加え,自閉症スペクトラムや精神障碍を併存する事例を4事例とりあげ,それぞれにおいて,個人心理療法,母子面接,集団心理療法,支援者連携に焦点をあてる。これら第3・4部の事例研究によって,自閉症スペクトラムの自己の障碍を参照枠に,知的障碍における“見えにくい”自己の障碍が可視化される。すなわち,自閉症スペクトラムにおける自己発達の特徴として,(1)同調的かかわりの重要性の気づかれやすさ,(2)相互的やりとりの立ち上げの困難,(3)自己完結的な自己理解―固く,まとまりにくい自己,(4)対人的自己生成の希求と困難―相互的やりとりを求めて/過刺激による侵襲,(5)自己否定感と二次障碍,の5点が見出され,知的障碍における自己発達の特徴として,(1)同調的かかわりの重要性の見落とされやすさ,(2)表面的な相互的やりとりと過剰適応,(3)自他に対する“わからなさ”―あいまいな自己,(4)対人的自己生成の希求と困難―自己の受けとめと手応えを求めて/ニーズの気づかれにくさ,(5)自己否定感と二次障碍,が見出される。いずれも,互いの主体性を認め合う「相互主体的関係性」を構築する困難があると考えられ,自閉症スペクトラム的な自己発達の障碍は“他者性を関係性において感じ取ることの困難”,知的障碍的な自己発達の障碍は,“自己性を関係性において感じ取ることの困難”としてまとめられる。そして,発達障碍における自己発達支援は,関係論的な心理療法の一般的な方法論を基本的に適用可能であることが示される。その上で,発達障碍において特に求められる工夫として,セラピストがクライエントの自己をまなざし,そのわかりにくい表現をいかに敏感に捉え,セラピストがいかに素直に内省し,クライエントへの応答を工夫するか,というアクチュアリティに開かれた態度の徹底と,環境への柔軟なアプローチの2点を抽出する。, application/pdf}, school = {学習院大学, Gakushuin University}, title = {発達障碍における関係論的な自己発達と支援の可能性 : 知的障碍を中心に}, year = {}, yomi = {ナカシマ, ユウ} }