@phdthesis{oai:glim-re.repo.nii.ac.jp:00003880, author = {田口, 和雄 and Taguchi, Kazuo}, month = {2016-01-20, 2021-12-09, 2021-12-09}, note = {本研究の目的は、日本の主要産業の中から鉄鋼産業と電機産業の代表的企業である新日本製鐵株式会社(以下「新日鐵」)と株式会社東芝(以下「東芝」)を事例として取り上げ、日本企業における第二次世界大戦後(以下「戦後」)の賃金制度の変遷の特質を実証的に検証することである。1990年代以降、経営体質の強化を図るために、日本企業は経営改革に取り組み、それに連動して賃金制度の再編を進めている。それは、高度経済成長の下で形成された年功をベースとした賃金制度を、能力や成果を重視する制度に組み替えようという動きである。このような動きが賃金制度の構造そのものをどの程度変える動きであるのか、構造そのものを変えるとすればどこに向かおうとする動きであるのかを明らかにするには、「賃金制度は経営環境に規定される」という原則に立って賃金制度の変遷の特質を確かめることが役に立つと考えられる。このように考える背景にはつぎの2点がある。第1に賃金制度はそれ自身が単独で形成されているのではなく、経営環境の下で企業が経営目標を実現するために展開する人事戦略にしたがって形成されていること、第2に現在の賃金制度はこれまでの幾多にわたる改定を経て形成されており、一時点の変化を詳細に分析するだけでは表層的な分析にとどまってしまうことである。賃金制度の長期的な変遷の特質を確認するには個別企業の丁寧な実証研究が必要であり、本研究のねらいはこの点にある。この「賃金制度は経営環境に規定される」という原則に立って既存研究の成果を整理すると、つぎの3点の限界がみられる。1.経営環境、経営状況との関連で戦後の賃金制度の変遷の大枠は既存研究でかなりの程度提示されているが、それらは定性的かつ概括的に戦後の変遷を捉えているにとどまり、経営指標との関連で検証する等、詳細な実証的、定量的な分析がなされていない。2.個別企業の事例分析による研究では、戦後の日本経済を牽引してきた大手製造企業等を事例に取り上げ戦後の変遷を検証しているものの、それらは特定の転換期における特定の賃金制度改革を検証するにとどまり、戦後から現在までを通した賃金制度の変遷を体系的に明らかにするまでには至っていない。3.一部の研究では、賃金制度の長期的な変遷を取り上げているものの、特定の賃金要素、あるいは特定の従業員層を個別に取り上げているため、賃金制度設計の重要な点の1つである基本賃金を構成する賃金要素の組み合わせの変遷についての検証が行われていない。そのため、明らかにされたことが賃金制度の全体構造をどの程度変える動きであるのか、さらに全体構造をどこに向けて変えようとする動きであるのかという戦後の変遷を総括することができていない。以上の先行研究の成果を踏まえて、本研究は以下の2つの点を明らかにしている。1.個別企業の事例分析を通じて戦後の賃金制度の変遷の特質と、「賃金制度は経営環境に規定される」という原則に立って変遷がなぜ起きたかを明らかにする。2.その検証作業を踏まえて、1990年代以降の賃金制度再編の動きが賃金制度の構造そのものをどの程度変える動きであるのか、構造そのものを変えるとすればどこに向かおうとする動きであるのかを考察する。これら研究課題を取り組むには、企業を対象とした事例研究が必要になる。しかも本研究では戦後の賃金制度の変遷を分析するため、研究対象となる企業は第1に戦前に設立された企業であること、第2に日本を代表する企業であることの2つの要件を充たしていることが必要となる。本研究ではこれらに該当する企業として、日本の主要産業である鉄鋼産業と電機産業の代表的企業である新日鐵と東芝を選択し、事例研究の対象企業とした。賃金制度の対象は一般者(労働組合員)の基本賃金とし、家族手当、住宅手当、特殊勤務手当、役付手当および時間外勤務手当等の諸手当を除いている。また、賃金制度の基盤である人事制度の変遷も関連する範囲で取り上げている。研究方法について本研究は、以下の2つの方法をとっている。1.新日鉄と東芝における戦後の賃金制度の変遷を明らかにするための文献研究。戦後の変遷を詳細に分析するために用いた文書史料は会社社史、労働組合資料等の1次文書史料であるが、それを補う範囲で公表されている文献等の2次文書史料も用いた。2.文献研究を補完するためのインタビュー調査。本研究では歴史研究の研究手法である文書史料をもとにした分析を行うが、それを補完するために、当時の労使交渉に参加した関係者等を対象としたインタビュー調査を行った。以上の研究課題と方法に基づいて、本研究は以下の3部10章から構成されている。序章では研究の背景と問題意識、分析フレームワークを提示したうえで、先行研究の成果を整理し、それを踏まえて本研究の課題、対象および方法を論じている。つづく第1章以降の構成はつぎの通りである。第Ⅰ部と第Ⅱ部(第1章から第7章)は実証研究であり、本研究の中心部分である。第Ⅰ部(第1章~第4章)では新日鐵を、第Ⅱ部(第5章~第7章)では東芝を事例として取り上げ、両社の戦後の賃金制度の変遷を分析する。その際には、経営と賃金制度の変遷をみるための時代区分を設定したうえで、この時代区分に沿って賃金制度がどのような経営環境の下で、どのような変容を遂げてきたのかを分析している。第8章と終章からなる第Ⅲ部では、第Ⅰ部と第Ⅱ部の分析結果をもとに、賃金制度の長期的な変遷の特質を検証する。そして最後の終章では、本研究で明らかにしたことを整理したうえで、現在起こっている賃金制度の再編の動きについて検討する。最後に、残された課題を明らかにすることによって今後の研究の方向性を提示している。新日鐵と東芝の賃金制度の変遷の分析によると、業種が異なるにも拘わらず経営戦略の基本的な方向とそれに対応した賃金制度には共通する点が多く、時期はやや異なるものの、同じ経営戦略の変遷を遂げている。経営再建が進められた生産体制拡大期は、戦後の混乱期の中で立ち遅れていた競争力を回復するために、従業員の増員によって経営規模の拡大を進める経営戦略がとられた。この戦略に合わせて、従業員が生産活動に専念できるための安定賃金と生産の拡大と、賃金を結びつけるための業績連動賃金から構成される同期以前に導入された賃金制度が継続された。生産体制調整期の経営戦略は、生産体制拡大期に上昇した人件費を抑えつつ競争力を強化するために、従業員数を維持しつつ労働生産性の向上を通した経営規模の拡大を進める戦略をとった。それに対応する基本賃金は業績連動賃金を縮小し、安定賃金を拡大することであった。生産体制再編期に移行すると、それまでの従業員数を維持しつつ経営規模を拡大する経営戦略は経済活動のグローバル化などの経営環境の変化の中で行き詰まった。国際的に賃金が高水準となったことによる競争力の低下がその背景にあった。この問題を解決するため、経営規模を調整しつつ従業員を削減して労働生産性の向上を追求する経営戦略へと転換された。それに連動して賃金制度は、成果と賃金の結びつきを重視する方向に変化し、基本賃金の構成は安定賃金の拡大から一転して業績連動賃金の新設(再設置)と拡大へと進んだ。これまで明らかにしてきた戦後の変遷を通して、生産体制維持期にある現在の賃金制度改革の方向を考えてみると、安定賃金の序列づけと業績連動賃金の役割の変化が注目される。すなわち、グローバル競争の激化、技術革新の進展等の厳しい経営環境の中で競争力を維持し続けるには、日本企業は生産性の向上、製品の高付加価値化を加速させることが不可欠である。この経営戦略との関連を強める賃金制度は安定賃金の能力序列化をいっそう強め、業績連動賃金を増やす方向で変化することになろう。日本の代表的企業である新日鐵と東芝にみる賃金制度の歴史的変遷は、賃金制度のこのような方向を示唆しているといえる。, application/pdf}, school = {学習院大学, Gakushuin University}, title = {日本企業における賃金制度の戦後史 : 新日本製鐵と東芝の事例研究をもとに}, year = {}, yomi = {タグチ, カズオ} }