@phdthesis{oai:glim-re.repo.nii.ac.jp:00003872, author = {立川, 将士 and Tachikawa, Shoji}, month = {2015-06-10, 2021-12-09, 2021-12-09}, note = {がんは人類にとって深刻な病の一つである。がんに対する治療は、外科療法、化学療法、放射線療法が三大治療法であるが、近年では患者のQOL(Quality of Life)を考慮した、低侵襲性のがん治療法が注目されている。代表的な治療法として、中性子捕捉療法(BNCT : Boron Neutron Capture Therapy)や光線力学療法(PDT: Photodynamic Therapy)などがあり、本研究では、この二つの治療法の治療効果向上、適応幅の拡大を目的として、リポソームを用いた新たな薬剤開発を行った。 「Boron-Encapsulating Liposomes and Their Promising BNCT Effects in Mice」 【目的】 がん中性子捕捉療法(BNCT : Boron Neutron Capture Therapy)とは、人体に無害である熱中性子線とホウ素(10B)の核反応によって生じるアルファ線とリチウム核を利用して、がん細胞を破壊する治療法である(Figure 1)。現在、BNCTのためのホウ素薬剤はBPA(p-boronphenylalanine)とホウ素12個からなるイオンクラスターBSH(Borocaptate Sodium)が臨床試験中であるが、今後は治療適応幅の拡大、さらなる腫瘍内ホウ素濃度の向上が求められている。私は、腫瘍組織は血管から微粒子が流出しやすく、さらに腫瘍組織に到達した微粒子はリンパ管回収機構が不完全なため蓄積するという特性(EPR効果)を利用して、脂質二分子膜から構成されるリポソームを用いた薬物送達に関する研究を行っている。 BNCTのためのホウ素薬剤内封リポソームに関して、これまでにさまざまな研究が行われてきた。しかしながら、BSH内封リポソームはリポソームからのBSHの漏出が多く、調製可能なホウ素濃度が最大で3,000 ppm程度であり、血中内での安定性の低さからも、BNCTに望まれる腫瘍内ホウ素濃度30 ppm以上に達することが困難であった。この問題点に対し、私は腫瘍へのホウ素高集積化を目指し、ホウ素薬剤内封リポソームの高濃度化と安定化を目的とした。 【方法と結果】 先ず始めに、既に臨床応用されているNa2B12H11SH(BSH)加え、NaB12H11NH3(BNH)、Na2B12H11OH(BOH) を新たに合成し、これらのホウ素クラスター及びそのリポソーム化剤について毒性及び生体内挙動を比較検討した。Hela細胞を用いて調べたところ、GI50値はBSHとBOHはそれぞれ1.7、5.1 mMと同程度であったが、BNHは17.0 mMと低毒性であった。次にこれらホウ素薬剤を用いてリポソーム内へのホウ素薬剤の高集積化と安定化を目的として、多価アミンの塩を用いた高集積化ホウ素リポソームの開発を行った。ホウ素イオンクラスターは多価アミンとの相互作用が強く、高濃度条件では水溶性が極めて低くなる。この性質から、BSH内封リポソームはリポソームを構成するリン脂質(DSPC: Distearoylphosphatidylcholine)のコリン末端へのBSHの相互作用により安定性の低下とリポソームからのBSHの漏れが生じていると考え、私は生体内に存在し且つ臨床薬剤のカウンターカチオンとして用いられるスペルミジンを塩酸塩にすることで、相互作用の低減を促すホウ素イオンクラスターのカウンターカチオンとした。すると、スペルミジン塩酸塩ホウ素インクラスター内封リポソーム(spd-BSH Liposomes : スペルミジンBSH内封リポソーム、spd-BNH Liposomes : スペルミジンBNH内封リポソーム)を調製した際、これまでにBSH内封リポソームでは調製可能な限界ホウ素濃度が約3,000 ppm程度だったのに対し、スペルミジン塩酸塩ホウ素インクラスター内封リポソームでは最大ホウ素濃度が約10,000 ppmという極めて高いホウ素濃度調製が可能となった。その理由としては、リン脂質DSPCのリン濃度に対するホウ素濃度B/P比の測定から、BSH内封リポソームよりも一つのリポソームあたりに約3倍量のホウ素イオンクラスターが集積されているためである。またそれは時間依存的なリポソームからの漏出も極めて低く、14日間に渡りB/P比3以上を保つことから、安定してリポソーム内に高濃度にホウ素薬剤が保持されていることも確かめられた。マウスを用いた動物実験では、これまでの約3倍量にあたる100 mg/kg投与群においても急性毒性はなく、BNCT効果向上を目的とする目標の腫瘍内ホウ素濃度30 ppm以上を遥かに凌ぐ、200 ppm以上のホ ウ素集積が確認された。また、これまでの半分の投与量である15 mg/kg投与群においても、血中内安定性に優れ、血中内ホウ素濃度が高いため、36時間後に最大で腫瘍内ホウ素濃度が約35 ppm集積し、且つ腫瘍/血中ならびに腫瘍/正常組織のホウ素濃度比が約2であった。このホウ素生体内分布から、同条件において投与36時間後に中性子照射実験を行ったところ、100 mg/kg投与群は照射15日後に腫瘍が完全に消失し、完治することに成功した。また、これまでの半分の投与量である15 mg/kg投与群においても効果的に腫瘍萎縮がみられ、照射20日後には腫瘍が消失したため、その後100日間にわたり生存率の確認を行った。薬剤投与のないHot Control群のマウスがすべて死亡したのに対し、30 mg/kg spd-BSH liposoms投与群では100%、15 mg/kg spd-BSH liposomes, 15 mg/kg spd-BNH liposoms投与群では約70%のマウスが生存した (Figure 2) 。さらにこのスペルミジン塩酸塩ホウ素インクラスター内封リポソームは治療効果だけではなく、リポソームを構成するリン脂質DSPCの量も半分もしくは1/3にすることが可能となり、リポソーム投与量を減らすことができる。以上のことから、本研究で開発したスペルミジン塩酸塩ホウ素インクラスター内封リポソームはBNCTのための臨床薬剤に向けた有用性の高いリポソーム薬剤であると考えられる。 Tachikawa, S., Miyoshi, T., Koganei, H., El-Zaria, M. E., Viñas, C., Suzuki, M., Ono, K., Nakamura, H. (2014) Spermidinium closo-dodecaborate-encapsulating liposomes as efficient boron delivery vehicles for neutron capture therapy, Chem. Comm., 50, 12325-12328. 「Synthesis of Protoporphyrin-Lipids (PL): Methods and Mechanism of Effective PDT with PL-Micelle & PL-Liposomes」 【目的】 がん光線力学的治療法(Photodynamic Therapy: PDT)とは、ポルフィリン化合物のような光感受性物質に低エネルギーのレーザーを照射した際に発生する活性酸素(ROS: Reactive Oxygen Species)によって、がん細胞を殺傷する治療法である。そこで私は、ヒト生体膜に近似し、薬剤送達キャリアとして用いられているリポソームを用いて、EPR効果により、ポルフィリン化合物をがん組織へ送達することを目的とした。本研究では、ポルフィリン脂質を新たに開発し、リポソーム膜に導入したポルフィリン脂質リポソームを調製する。(Figure 3) さらに、がん細胞に対して、高いPDT効果を得るための最適条件を、取り込み時間に対するポルフィリン脂質とROSの局在から明らかにし、その細胞死を引き起こすROSの化学的働きを、細胞膜モデルとしてカルセイン内封DOPCリポソームを用いることで証明する。 【方法と結果】 PpIX (Protoporphyrin IX)を出発物質として炭素数13, 15, 17のアルキル鎖を有するポルフィリン脂質の合成に成功した。ポルフィリン脂質はリチウム塩にすることで両親媒性化合物となり、水中では粒子径100-1000 nmの凝集ミセル体を形成し、高い水溶性を示した。次にMTTアッセイ法により、HeLa細胞を用いて毒性を調べたところ、炭素鎖の長さに関係なくIC50が0.15-0.38 mMと低毒性を示した。ポルフィリンは水中においてPDT効果の低下を促す凝集体を形成しやすいが、ポルフィリン脂質ミセルは、ポストインサーション法によりリポソーム膜へ均一に分散して導入することができ、結果としてポルフィリン脂質リポソームはリン脂質(DSPC) : ポルフィリン脂質のモル比10 : 1での導入が最適であった。In vitro実験では、PpIXが細胞内での局在が不変であるのに対し、ポルフィリン脂質は、ミセル体、リポソーム体はともに細胞膜及び細胞質へ均一に取り込まれた後、ゴルジ体を経由して、細胞質内の小器官へと移動することが観察された。その結果を基に、光照射を行ったところ、ポルフィリン脂質ミセル体、リポソーム体は細胞膜及び細胞質内に均一に局在している時は取り込み量に関わらず、高いPDT効果を得ることができた。しかし、細胞内の小器官へ局在した時は、10分の1以下の細胞殺傷効果となり、細胞膜傷害を評価するLDHアッセイによっても同様の結果を得た。(Table 1) またROSの定量化と局在観察を行ったところ、細胞殺傷効果を促すROSは細胞内での産生量よりも、その局在に細胞死が依存していることも確認された。このことから、効果的なPDT効果はROSによる細胞膜の傷害を主とするものと考え、細胞膜モデルとして、ポルフィリン脂質を導入したカルセイン内封DOPCリポソームを用いたところ、ROSは細胞膜構成成分に含まれる脂質の二重結合部への酸化を引き起こし、それによる、細胞膜の構造変化から、内部物質の漏出が起きていることが化学的に証明された。最後に,腫瘍移植マウスを用いた生体内分布試験では、ポルフィリンリポソームのみ腫瘍へ集積していることが観察されたため、動物レベルにおいても高いPDT効果が得られることが示唆された。, application/pdf}, school = {学習院大学, Gakushuin University}, title = {Development of Liposinal Agents for Physically-Induced Selective Cytotoxicity toward Tumor Cells}, year = {}, yomi = {タチカワ, ショウジ} }