@phdthesis{oai:glim-re.repo.nii.ac.jp:02002926, author = {守屋, 綾乃 and Moriya, Ayano}, month = {2024-06-04, 2024-06-04, 2024-06-04}, note = {序論・背景 多細胞動物の体内の恒常性を維持するためには、器官同士が互いに応答し合うことが重要であり、その仕組みの一つが、血液中を循環するホルモンである。昆虫ペプチドホルモンの一つDiuretic hormone 31(Dh31)は31アミノ酸から構成される利尿ホルモンで、本研究で用いたショウジョウバエでは、中腸(哺乳類小腸に相当)後方で産生され、さまざまな生命活動に関与している。本研究室の先行研究では、中腸から産生されるDh31をRNA干渉法によりノックダウンすると、個体寿命が延長し、中腸老化は遅延する一方で、オスの生殖に必須の内部生殖器官である附属腺(哺乳類前立腺に相当)の老化は促進する「恒常性の乱れ」が起きることが明らかとなった(Takeda et al., 2018)。その時点でこの表現型は、一般に老化を制御するインスリンシグナル(insulin/ insulin-like growth factor-like signaling; IIS)とは独立にDh31が働く作用を反映したものと予測されていたため、本研究はその分子メカニズムの解明を目指した。 目的-1 Dh31抑制による附属腺の老化促進のメカニズムの解明 結果 Dh31抑制による附属腺の老化促進にはインスリンシグナルが関与する まず、野生型では、中腸産生Dh31が附属腺Dh31受容体を介して附属腺老化を防ぐと予想し、附属腺でDh31受容体をノックダウンしたが、老化促進は観察できなかった。加えてRNA-seq解析から、Dh31受容体は附属腺ではほとんど発現していないことが示された。従って、Dh31ノックダウンによる附属腺の老化促進は、Dh31による附属腺への直接作用を反映するものではないことが強く示唆された。 IIS経路は、寿命や老化を制御する性質があることが知られている。当研究室の先行研究で、野生型のInRを附属腺で過剰発現すると、老化促進に似た症状をみせたので(2018年度 寺畠 未発表)、Dh31抑制による附属腺老化促進にもIIS経路が関与し得ることが予想された。まず、附属腺で野生型のインスリン受容体(insulin receptor; InR)を過剰発現すると老化は促進した。次に、Dh31ノックダウンと同様に老化促進するDh31欠失変異体の附属腺でInRをノックダウンすると、老化促進は抑圧された。この結果からDh31抑制による附属腺の老化促進はInRが仲介している可能性が示唆された。先行研究で、Dh31による老化促進がIIS経路を介する可能性が低いとされていたのは、従来からIISマーカーとして使用されてきたtGPHの応答がみられなかったためであった。そこで、より高感度で確実にインスリンシグナルを検出できるマーカーの開発も必要となった。これは二つ目の目的として後述する。 附属腺でインスリンシグナルの観測を行うために、InRを組織標本上で観察することを計画した。そこで、InRに融合したタンパク質の蛍光によりInRの局在を可視化できる系統(InR::mCherry)を作成し、Dh31欠失変異体の附属腺細胞の観察を行った。Dh31欠失変異体の附属腺ではInR::mCherryタンパク質からの蛍光に由来する多数の顆粒が確認できたため、Dh31抑制による附属腺の老化促進はインスリンシグナルが関与することが示唆された。 考察 Dh31がIISシグナルを通して器官の間の老化バランスを調節している可能性 先行研究ではDh31抑制により、中腸の老化は抑制される一方で附属腺の老化が促進することが示されていた。二つの器官でDh31抑制時に老化応答が相反することから、Dh31は個体がもつ総エネルギーの各器官への割り当てに関与しているという仮説が立てられていた(Takeda et al., 2018)。本研究ではDh31欠失変異体における附属腺の老化促進がIIS経路によって仲介されることが示唆された。この結果とあわせ、Dh31は、IISシグナルによって制御される全身的な老化において、器官同士の間に維持されるべきである老化進行度のバランスを調節している可能性があると、その解釈が修正された。 目的-2 高感度のIISマーカーの開発 RNA-seq解析でコントロールとDh31ノックダウン個体の附属腺の遺伝子発現レベルを比較すると、InR mRNAはDh31ノックダウン個体では7.8倍に増加していた。この結果からも、従来使用されてきたtGPHは低レベルのインスリンシグナルを観測するには感度が十分ではないことが懸念されたので、より高感度にインスリンシグナルを観測できるツールの検討が必要となった。 結果 mCherry/EYFP融合InRノックイン系統の作成と観察 附属腺でInRタンパク質の発現を可視化するために、InRコード領域の終止コドン付近に「[リンカー]-[蛍光タンパク質]-[選択マーカー]カセット」をノックインし、InRの局在を蛍光タンパク質から生じる蛍光により追跡できる系統を作成した。赤色蛍光タンパク質を改変したmCherryと融合させた系統InR::mCherry、またはGFPを改変したEYFPを融合させた系統InR::EYFPを確立した。本研究ではInR::mCherryを実験に使用した。 InR::mCherryは附属腺上皮細胞においては、附属腺が未成熟の段階では細胞間の細胞膜上に局在し、成熟すると細胞内領域に顆粒状に観察された。 考察 InR::mCherryの細胞内局在には二つのパターンが存在する InR::mCherryは、附属腺上皮細胞において未成熟な段階では、細胞間の隙間をつくる細胞膜の基底膜側に局在していた。このようなInRの細胞膜への局在は、細胞膜の内側で活性化することが知られているInRの下流因子の分布を反映している可能性がある。一方で、附属腺上皮細胞が成熟した段階では細胞膜上にはあまり局在せず、細胞内領域に多数の顆粒状に検出できた。さらに、この顆粒はエンドソームとリサイクリングを制御するRab4と共局在していることがわかった。これは、インスリンを取り込もうとするよりも、エンドサイトーシスによるリサイクリング経路が優位になる可能性を示している。以上より、蛍光タンパク質融合InRノックイン系統の作成により、細胞成長の程度によってInRの局在が変化し、そのためにIISシグナルの活性化を視認できるシグナルマーカーとして使用できる可能性が示された。, application/pdf}, school = {学習院大学, Gakushuin University}, title = {ショウジョウバエの中腸ホルモンDh31抑制による附属腺の早期老化のメカニズム}, year = {}, yomi = {モリヤ, アヤノ} }