@phdthesis{oai:glim-re.repo.nii.ac.jp:02002560, author = {劉, 清 and Liu, Qing}, month = {2023-07-17, 2023-07-17, 2023-07-17}, note = {世界金融危機以降、銀行が直面するリスクとして、信用リスクに加え、流動性リスクや、金融システム全体が不安定になるシステミックリスクが注目されている。また、バーゼル銀行監督委員会(BCBS)による国際的な金融規制の新たな枠組み(Basel III)においても、流動性規制やシステミックリスク抑制のためのマクロプルーデンス規制が国際的に活動する主要な金融機関に適用されるようになった。しかし、銀行の個別リスク及びシステミックリスクの決定要因については、解明すべき点が多く残されている。そこで本研究では、特に政府による銀行保有が銀行の個別リスクおよびシステミックリスクとどのように関係しているのか、また、銀行の信用リスクと流動性リスクが破綻リスクとどのように関係しているのか、といった点に焦点を絞り分析を行う。 第一に、政府による銀行所有と銀行の個別リスクの関係について分析した。先行研究では、国営銀行と非国営銀行に分けて、個別リスクの決定要因が分析されてきたが、国営銀行や非国営銀行の中でも政府保有比率にはばらつきがあるにもかかわらず、こうした政府保有比率の変動が個別リスクに与える限界的な影響については明らかになっていない。また、先行研究は、それぞれ信用リスクや信用格付けなど単一の個別リスクに焦点が当てられており、様々な個別リスク指標について包括的に研究されているものは少ない。そこで本研究では、政府所有比率が銀行の個別リスクに与える影響について、不良債権比率、信用格付けに加え、株価を用いた様々な指標を用いた包括的な分析を行った。2007年から2018年までの中国の上場銀行のデータを用いて推計した結果、政府所有比率が高いほど期待ショートフォール、ベータリスク、総資産利益率、不良債権比率が有意に高く、ベースライン信用評価格付けが有意に低いことが明らかになった。また、国営企業(GOE)保有比率が高いほどベースライン信用評価格付けが低い傾向も見られた。これらの結果は、銀行の規模や観察不能な銀行固有の特性を考慮すると、政府および国営企業の保有比率が高いほど、銀行の個別リスクは高くなる傾向があることを示すものであり、政府および国営企業の保有比率の上昇が暗黙の保証を通じて銀行のリスクテイクを促すことを示している。 第二に、政府による銀行所有と銀行セクターのシステミックリスクの関係を検証した。システミックリスクに関しては、これまではリスク指標の開発と測定に力点が置かれ、決定要因に関する研究はまだ限られている。特に、政府保有とシステミックリスクとの関係については、その潜在的重要性にかかわらず、先行研究はほとんど存在しない。そこで、2007年から2018年までの中国の上場銀行について、複数のシステミックリスク指標を用いて分析を行った。具体的には、まず、国営銀行と株式制銀行の平均値を単純に比較すると、個別銀行の損失が金融システム全体の損失に与える影響(ΔCoVaR)と金融危機における資本不足(SRISK)の影響は国営銀行のほうが大きく、金融危機における個別銀行の損失(MES)は国営銀行のほうが小さい。次に、規模や銀行の固定効果を考慮して、政府保有比率がシステミックリスクに及ぼす影響を推計すると、政府保有比率の上昇はΔCoVaRとは有意な関係を持たないが、SRISKやMESとは負に有意な関係を持つ。これらの結果は、銀行の規模や観察不能な時変特性をコントロールすると、政府保有比率が高いほど、システミックリスク(MES、SRISK)は低くなる傾向があることを示すものである。政府保有比率が高いほど信用格付けなどの個別リスクが高い(第2章)にもかかわらず、MESやSRISKが低いという結果は、政府所有比率が高い銀行ほど、金融危機時に特に大きな救済が行われやすいという特徴がある暗黙の保証によって、MESやSRISKは実際のシステミックリスクを過小評価しているためではないかと考えられる。 第三に、流動性リスクと信用リスクがそれぞれ破綻リスクとどう関連しているかを分析した。特に流動性リスクと破綻リスクに関する既存研究は、主に先進国・地域の金融機関を対象としているため、金融システムの発展度が低い途上国において、流動性リスクがどのように銀行の破綻リスクにつながるかは明らかになっていない。また、流動性リスクの指標は複数存在するが、各研究ではそれぞれ個別の指標を分析対象としている。そこで、本研究では、全世界の銀行にデータを拡大し、複数の流動性リスク指標を用いて包括的な分析を行った。分析対象は、2011年から2020年までの195か国・地域の銀行である。流動性リスクの指標としては、(1)資金ギャップ比率(FGAPR=(総貸出-コア預金)/ 総資産(%))、(2)流動性資産負債比率(LR=流動性資産の残高/流動性負債の残高(%))、(3)安定調達比率(NSFR。バーゼルⅢで公表されたウェイトによる銀行負債と資産の加重合計の比率)、および、(4)貸出・預金比率(NLCS=貸出純額/預金および短期資金(%))を用い、信用リスクの指標としては、不良債権比率(不良債権額/総貸出(%))を用いた。また、破綻リスクの指標としては、倒産確率の指標であるZ-スコアを用いた。その結果、NSFRを除くすべての流動性リスク指標が破綻リスクと正の相関を有していること、また、これらの相関は、先進国と途上国に分けても、また、米国、中国、日本のサンプルを抽出した場合のいずれに国おいても概ね成立していることが明らかになった。ただし、流動性リスクと破綻リスクの関係は、先進国と途上国に分ければ特に先進国において、また、銀行システムの発展度合いで分ければ特に銀行システムが発展している国において、金融規制の程度で分ければ、特に規制の強い国において、より顕著な傾向が見られる。先進国と途上国、あるいは、銀行システムの発展度や規制の程度において、流動性リスクが破綻リスクに与える影響の程度が異なるのは、金融危機時における流動性の枯渇という現象が、金融システムが発展した先進国により顕著であることを示唆している。その理由としては、金融システムが発展しているほど、銀行間の競争が活発で、かつ、銀行預金以外の多様な資産運用手段が利用可能であることから、預金を含む金融資産間の資金の移動が素早く行われることが考えられる。また、流動性リスクが銀行破綻につながるうえで、社会的ネットワークが重要であることが知られているが、特に途上国においては、流動性リスクの指標が社会的ネットワークの重要性を十分に捉えられていないことが、その有意性を低下させた可能性もある。他方、不良債権比率で測った信用リスクと破綻リスクの関係については、比較的弱い関係しか見いだされなかった。これは、不良債権比率に応じた自己資本規制が機能している可能性と、グローバル金融危機後のサンプル期間において、比較的金融システムが安定していることが影響している可能性が考えられる。 本研究では、銀行部門の破綻リスクに注目した。これは、中国を含む多くの国で、依然、銀行が金融システムの中心的な位置を占めていること、また、銀行のデータは入手が比較的容易であることによる。しかし、金融システムにおいて、保険会社や証券会社など銀行業以外の重要性は増しつつあり、データが入手可能になれば、今後、これらを対象に含めて研究することが重要である。また、流動性リスクやシステミックリスクについては、健全な銀行と、支払いに問題がある銀行とを分けることも今後の重要な課題だと考える。流動性リスクについては、健全な銀行であっても、突然のバンク・ランなどにより破綻する可能性がある。これは、預金者が預金を引き出そうと躍起になり、突然多額の資金が引き出されると、銀行内の流動性が不足し、貸出を回収するために損失がでても資産の清算を余儀なくされることによる。システミックリスクについても、支払い能力に問題がある銀行が他の銀行に悪影響を及ぼす場合と、健全な銀行が他の銀行の破綻から影響を受ける場合が考えられる。健全な銀行と支払い能力に問題がある銀行を区別して、流動性リスクやシステミックリスクが顕在化するメカニズムを明らかにすることは、今後の課題である。, application/pdf}, school = {学習院大学, Gakushuin University}, title = {銀行業の破錠リスクに関する実証的研究 : 中国の銀行を中心として}, year = {}, yomi = {リュウ, セイ} }