@phdthesis{oai:glim-re.repo.nii.ac.jp:02002559, author = {高橋, 由季子 and TAKAHASHI, Yukiko}, month = {2023-07-17, 2023-07-17, 2023-07-17}, note = {バレエ史において、女性ダンサーが舞台の中心に立つのは、ロマンティック・バレエの成立時からである。それでは、ダンサーの中心が男性から女性になるというパラダイムシフトは、どのようにして起こったのか。また、フランスではロマンティック・バレエはどうして凋落したのか。本論では、女性中心の新しいバレエ文化の誕生という、バレエ史における大きな転換点に注目し、フランスにおけるロマンティック・バレエの隆盛、衰退の過程を考察するものである。 女性を中心としたバレエの誕生は、1831年にルイ・ヴェロンが新総裁として就任した時であった。パリ・オペラ座では、男性客に女性ダンサーを観賞してもらうために、女性ダンサーのスターシステムが構築され、物語は解りやすいように単純化された。結果、ロマンティック・バレエはムーブとなる。しかし、1840年代をピークにロマンティック・バレエは衰退していく。その衰退原因をスターシステムの歪みと物語の単純化に着目して考察するのが本論の目的であり、その構成は以下のようになる。 序章では、宮廷バレエからモダン・バレエの歴史を概観し、ロマンティック・バレエから女性が中心となったことを確認する。同時に、フランスでは観客の中心が王侯貴族から上層ブルジョワジー、そして一般大衆へと移行する過程で、見世物としてのバレエの価値が変容した点に着目し、社会情勢によって変化するバレエの様式について考察する。 第1章では、ロマンティック・バレエの成立と隆盛について論じる。第1節では、ロマンティック・バレエ確立以前のバレエ理論の変遷を確認する。総合芸術としての宮廷バレエから、ストーリーに主眼をおくバレエ・ダクシオンへと移行し、それが女性中心のバレエへと変わるまでには、様々な様式の変化があった。その変化のうち、例えば、衣装の重要性が増大したり、舞台全体の調和に努めるなど、ロマンティック・バレエに継承されたものはいくつもあったので、それらを明らかにする。 第2節では、ロマンティック・バレエの演出に不可欠なガス灯照明について検証する。ガス灯とライムライトによって、強力な光源と白系の光色の確保が可能となり、照明や衣装の改革によって、隠されていたスカートの中は晒された。蝋燭、オイル・ランプ、ガス灯へと照明のテクノロジーが進化していくにつれ、舞台上の演出も劇的に変化していったのである。 ロマンティック・バレエとは、ロマン主義の特徴である夢幻への憧憬や妖精信仰、異国趣味などが混ぜ合わされた「芸術」であり、夢幻世界を表現した舞台が大人気を博したのである。第3節では、ロマンティック・バレエの隆盛原因を社会的、文化的背景から考察し、第4節では、ロマン主義を具現化したスターダンサーの表象分析をおこなう。ロマンティック・バレエの成立と同時に隆盛した戦略は、ヴェロンの商業的手腕によるものであった。ヴェロンは女性美を際立たせるためのバレエ様式を作り、成功を収めた。しかし、20年ほどで衰微する。 第2章では、ロマンティック・バレエの衰退原因について、スターと群舞のダンサー、そして男性ダンサーに着目し、スターシステムの歪みについて考察する。パリ・オペラ座は、スターダンサーと群舞として舞台に立つ下級ダンサーに、男向け女向けの性道徳が異なるという「性の二重基準」を適用させ、憧れの女性であるスターダンサーを羨望の的として定着させる一方で、下級ダンサーを愛人関係を結ぶ身近な存在として男性客に提供したのである。 第1節では、象徴的な女性像を二律背反的に整理し、第2節で、ロマンティック・バレエのスターダンサーについて考察する。第3節では、性的対象と切り離せなかった下級ダンサーについて、第4節では、女性中心主義体制から排除された男性ダンサーに着目し、検証する。 スターシステムの歪みによるロマンティック・バレエの衰退原因は、女性中心主義にある。男性客にとって、男性ダンサーの存在は女性ダンサーを見る妨げでしかなかった。それが、男性ダンサーを排除した理由である。また、男性ダンサーを熱心に見つめる男性客の視線は同性愛的視線とみなされ、男性ダンサーが排除された可能性もある。 第3章では、19世紀において、観客が共感しやすい人間関係のパターンが登場人物間でも採用されていることに着目し、物語の単純化と創造性の停滞との関連性を検証する。観客が共感しやすい人間関係とは、男性同士の関係とその間に一人の女性がいる三角関係(男―男―女)と、男性が「妻(婚約者)」と「宿命の女」の間で悩む様子を示した三角関係(男―女―女)である。 第1節では、プレ・ロマンティック・バレエを、第2節では、ロマンティック・バレエ作品を分析した結果、悲劇的ロマンティック・バレエの人間関係は、各三角関係が一つずつ組み合わさった形を定型とみなすことができる。そして作品構造の変遷を検証した結果、物語の単純化は、複雑な人間関係から各三角関係が一つずつ組み合わさった定型へ、さらに三角関係の絆が希薄になっていく過程で生じたものである。 1850年代から、男性が一途に女性を思慕する物語が増加し、三角関係が単純化する傾向となり、革新的な作品は現れなくなった。優秀な作り手である男性ダンサーがいなくなり、物語の内容は有名作品の焼き直しでしかなくなる。創造性の欠落こそ、物語の単純化からみえてくる衰退原因である。 第3節では、ロシアのクラシック・バレエと比較することで、ロマンティック・バレエの問題点を浮き彫りにする。パリ・オペラ座は、振興ブルジョワジーを集客するために女性観賞に特化したバレエスタイルを貫いたが、観客の大衆化が起こらなかったロシアでは、ロマンティック・バレエを受け継ぎつつ、総合芸術としてのバレエが制作された。これは、それぞれの「バレエ」に対する目的の違いによって、進化の道筋が分岐した結果である。 パリ・オペラ座の女性中心主義によって、スターダンサーと下級ダンサーという二分化が進み、作品の主要な女性登場人物は「妻(婚約者)」のイメージと「宿命の女」のイメージに二極化された。ロマンティック・バレエはフランスの社会的背景のもとに「女性」観賞の目的で確立された男性経営陣による男性客のためのバレエ様式であり、そのスタイルに固執するあまり、衰退したといえる。 フランスにおけるロマンティック・バレエの衰退は、女性中心主義による男性ダンサーの欠如が要因である。つまり、ロマンティック・バレエの衰退は、パリ・オペラ座が女性中心のバレエ様式を確立した時点ですでに始まっていたのである。, application/pdf}, school = {学習院大学, Gakushuin University}, title = {フランスにおけるロマンティック・バレエの隆盛と衰退}, year = {}, yomi = {タカハシ, ユキコ} }