@phdthesis{oai:glim-re.repo.nii.ac.jp:02002556, author = {福田, 隆文 and Fukuda, Takafumi}, month = {2023-07-17, 2023-07-17, 2023-07-17}, note = {第1章 序論 認知機能および精神機能の低下や認知症は高齢期を好発期としており、高齢社会において解決すべき重要な課題である。認知症は抑うつや不安症状を頻繁に併発することに加え、うつ病自体が認知症の危険因子であることから、認知症対策のためには認知機能のみならず精神機能も含めてケアすることが重要である。 認知症のうち約70%を占めるアルツハイマー型認知症は、脳内のアミロイドの沈着による老人斑および神経細胞内へのタウタンパク質の蓄積による神経原線維変化という二つの病変を示すことが特徴であり、病変周囲では慢性的な脳内炎症が生じていることが知られている。現時点では、根本から認知症を治療する方策が確立されていないため、認知症の前段階である主観的認知機能低下(SCD, subjective cognitive decline)や軽度認知障害の段階から一次予防を開始することが重要である。近年、疫学研究や前向き介入研究により認知症の予防因子と危険因子が明らかにされており、食習慣をはじめとする生活習慣を適正化することによって、認知症の発症を遅らせることが可能であると指摘されている。 ホップ(Humulus lupulus L.)はビールの主要な原料の一つであり、ビールに苦味や香りを付与することを目的に使用される。ホップには酸、酸という化合物群が含まれ、酸化されることによりトリカルボニル構造を共通の分子構造として有する化合物群を生じることが知られ、熟成ホップ由来苦味酸(MHBA, matured hop bitter acids)と総称されている。MHBAは迷走神経を活性化することにより、認知機能の一部である空間認識に関わるワーキングメモリおよび物体認識に関わる記憶学習機能を改善することが非臨床試験によって確認されている。しかしながら、認知機能や精神機能に対する有効性のエビデンスは限定的であり、特にヒトへの効果については検討されていない。本研究では、MHBAが認知機能および精神機能に及ぼす影響とその作用メカニズムについて、非臨床および臨床の両側面から検討した。 第2章 MHBAによる空間認知機能および物体認識機能改善効果に対するアセチルコリン受容体の関与の検討  MHBAの認知機能改善効果には、迷走神経活性化を介した脳内のノルエピネフリンの増加が関与することが非臨床試験で確認されている。一方で、ノルエピネフリンが作用するアドレナリン受容体のアンタゴニストを処理したマウスでもMHBAの空間認識に関わるワーキングメモリの改善効果が完全には消失しないことから、他の作用メカニズムが存在することが示唆されていた。本研究では、求心性の迷走神経が青斑核を介してコリン作動性ニューロンが集積するマイネルト基底核にシグナル伝達することに着想し、MHBAの認知機能改善効果に対するアセチルコリン(ACh, acetylcholine)の関与を検討した。 ニコチン性ACh受容体(nAChR, nicotinic-ACh receptor)のアンタゴニストであるメカミルアミン塩酸塩を前処理したマウスでは、MHBAの空間認識に関わるワーキングメモリの改善効果が消失することが明らかとなった。また、nAChRのサブタイプのうち、認知機能への関与が強いとされる7nAChRに特異的なアンタゴニストであるメチルリカニコチンクエン酸塩の前処理によってもMHBAの効果は消失した。 本研究の結果から、MHBAの認知機能改善効果にはノルエピネフリン量の増加に加え、AChを介した作用メカニズムの存在が示唆された。 第3章 MHBAが脳内炎症モデルマウスのうつ様行動に与える影響およびその作用メカニズムの検討  近年の研究によりうつ病患者や認知症患者の脳内においてミクログリアが過剰に活性化しており、慢性的な脳内炎症が生じていることが明らかにされている。うつ病が認知症の危険因子であることや認知症の周辺症状として抑うつが生じることから、脳内炎症は両者に共通する病態として予防や治療のターゲットとして注目されている。第2章の研究および先行研究からMHBAは脳内のAChおよびノルエピネフリンに関与することが示されている。いずれの神経伝達物質もミクログリアの極性を保護型に誘導することで抗炎症作用を示すという既報に着想し、本研究では、脳内炎症およびそれによって惹起されるうつ様行動に対するMHBAの有効性を検討した。  MHBAを7日間強制経口投与(1回/日)したマウスに、リポ多糖を脳室内投与し脳内炎症を誘導した際のうつ様行動を尾懸垂試験により評価したところ、MHBAは蒸留水を投与した対照群と比較してリポ多糖投与によって惹起される尾懸垂試験の不動時間増加を有意に短縮させた。また、MHBAは炎症性サイトカインである海馬のIL-1量を減少させ、海馬のノルエピネフリン量を増加させた。うつ様行動と海馬のIL-1量は正の弱い相関、ノルエピネフリン量は負の弱い相関をそれぞれ示したことから、MHBAがこれらの因子に影響することで脳内炎症に伴ううつ様行動を改善した可能性が示唆された。一方で、迷走神経を切除したマウスではうつ様行動に対するMHBAの効果は消失したことから、認知機能改善効果と同様に迷走神経を介してその効果を発揮していると考察された。 以上より、MHBAは迷走神経を介して、脳内炎症により惹起されたうつ様行動を改善し、その作用メカニズムとして脳内炎症の抑制および海馬のノルエピネフリン増加が関与することが示唆された。 第4章 MHBAが健常な中高齢者の認知機能および精神機能に及ぼす影響の検証 –ランダム化二重盲検プラセボ対照並行群間比較試験–  第2章、第3章および先行研究により認知機能や精神機能に対するMHBAの有効性が確認されている。一方で、従来のエビデンスは非臨床試験に限定されており、ヒトに対する有効性は不明であった。そこで本研究では、MHBAを含む熟成ホップエキスのヒトでの有効性評価を目的として、物忘れを自覚する健常な中高齢男女(45—64歳)を対象としたプラセボ対照ランダム化並行群間比較試験を実施した。  研究対象者60名を30名ずつ2群に無作為に分け、研究食品としてMHBAを35 mg含む熟成ホップエキス含有カプセルもしくはプラセボカプセルを12週間毎日摂取させた。認知機能および精神機能の評価は、研究食品の摂取開始前、摂取開始6週間後および12週間後に実施した。その結果、長期記憶からの検索機能や実行機能を反映する語流暢性のスコア、および注意の制御機能を反映するストループテストのスコアがプラセボ群と比較してMHBA群で有意に改善した。さらに、精神機能のうち不安感、緊張感および疲労感が摂取開始12週間後にプラセボ群と比較してMHBA群で有意に改善した。これら有効性が確認された認知機能および精神機能のドメインには中央実行系ネットワーク(CEN, central executive network)の神経基盤が関与することから、MHBAは迷走神経を通じCENを活性化することでヒトの認知機能および精神機能を改善する可能性が示唆された。 第5章 MHBAが主観的認知機能低下を伴う中高齢者の認知機能およびストレスに及ぼす影響の検証 –ランダム化二重盲検プラセボ対照並行群間比較試験–  第4章の研究により物忘れの自覚を有する健常な中高齢者、すなわちSCDの認知機能および精神機能に対する有効性が示唆された。しかしながら、ヒトを対象とした有効性の検討は十分ではない。そこで本研究では、MHBAによる脳機能改善効果の再現性を確認するとともに、唾液および血中指標を評価することでその有効性を多面的にとらえることを目的として、SCD-questionnaireで選抜したSCD症状を有する男女(45–69歳)を対象にプラセボ対照ランダム化並行群間比較試験を実施した。  研究対象者100名を50名ずつ2群にランダムに分け、研究食品としてMHBAを35 mg含む熟成ホップエキス含有カプセルもしくはプラセボカプセルを12週間毎日摂取させた。認知機能、精神機能および唾液・血中指標の評価は、研究食品の摂取開始前、摂取開始12週間後に行った。その結果、注意の配分機能を反映する数字符号モダリティテスト(SDMT, symbol digit modalities test)のスコアがプラセボ群と比較してMHBA群で有意に改善した。また、視床下部・下垂体・副腎系の唾液中ストレス指標である-エンドルフィンがプラセボ群と比較してMHBA群で有意に低下した。さらに、アミロイドと結合しシナプス毒性の抑制などに関与するトランスサイレチンの血中濃度がプラセボ群と比較してMHBA群で有意に高値を示した。SDMTもまた、CENの神経基盤に支えられる注意の分配機能を評価する指標であることから、本研究結果は第4章の結果と一貫しており、再現性も含めてMHBAのヒトに対する有効性を確認した。加えて、視床下部・下垂体・副腎系のストレス反応に対するMHBAの有効性が示唆された。 第6章 総括 本研究では、ホップ由来苦味成分の一つであるMHBAによる認知機能改善効果の作用メカニズムの深耕、および脳内炎症によって惹起されたうつ様行動への有効性を非臨床試験によって明らかにした。さらに、認知症予防において重要な段階であるSCDを対象として、認知機能および精神機能に対するMHBAの有効性を再現性も含めて確認した。近年、認知症予防や認知機能低下に対して効果的な食様式についてエビデンスが蓄積されている。一方で、毎日の食生活に地中海式料理を取り入れたり、食の多様性を高めたりすることは日本人や高齢者にとっては困難であることが多い。そのため、確かなエビデンスに支えられた食品成分を見出し、サプリメントをはじめとした機能性食品で手軽に対策できるようにすることの意義は大きい。MHBAは、親和性の高いノンアルコール・ビールテイスト飲料のほか、様々な食品形態へ活用できることから、消費者が生活に取り入れやすい形での提供が可能である。本研究で得られた知見を活用することにより、高齢社会において深刻な脳の健康課題解決への貢献を目指したい。, application/pdf}, school = {学習院大学, Gakushuin University}, title = {ホップ(Humulus lupulus L.)由来苦味成分の認知機能および精神機能改善効果に関する研究}, year = {}, yomi = {フクダ, タカフミ} }